日本産の魚は通常、学名に加えて1種につき一つ標準和名が与えられています。さらに地域ごとで標準和名とは別の呼称があり、種によって多くの地方名を持つことも珍しくありません。
中には成長段階で呼称が変わる魚も存在し、このような魚は出世魚と呼ばれています。
食べれば出世?出世魚といえばブリ
出世魚で最も有名なのはブリでしょう。
関東では小さいほうからワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ、関西ではツバス→ハマチ→メジロ→ブリといった順序で呼称が変わっていきます。いずれの大きさも食用として流通し、通常、大きい個体の方が高価です。
また、流れ藻などに付く稚魚はモジャコと呼ばれており、食用にならないものの、養殖ブリの種苗として高い需要があります。ちなみにブリの養殖で有名な鹿児島県はモジャコの生産量が多く、日本の中でもトップクラスだそうです。
また、富山県ではコヅクラ→フクラギ→ガンド→ブリの順に呼称が変わっていき、特にフクラギは富山湾のプライドフィッシュとしても知られています。フクラギは漢字で「福来来」と書き、福が来る魚として富山県では重宝されているそうです。
小さいほうが高価?江戸前に欠かせない魚
コノシロはニシン目に属する中型の魚で、新潟県・宮城県以南の浅海に広く分布します。本種も成長段階によって呼称が変化する出生魚。4~5センチのものはシンコ、10~14センチのものをコハダ、15センチのものをコノシロと呼び、いずれの大きさも水産上重要な資源です。
コノシロは小さいもののほうが高くなる傾向があり、ブリとは対照的な存在。比較的大きいコノシロ、コハダは安価で取引される一方、7月頃にシーズンを迎える初物のシンコはキロ数万円の値が付くこともあるのです。シンコ、コハダの酢〆は江戸前寿司には欠かせない寿司ネタで、特にシンコの握りは最高級寿司として知られています。
では安価で取引されるコノシロは美味しくないのか?というとそうではありません。コノシロを姿寿司にした「このしろの姿寿司」は熊本県の八代地域の郷土料理であり、地元の人からだけでなく観光客からも人気の一品です。
また、コノシロは食べることは「この城を食う」ということで江戸時代に武士が食べることは禁じられていたというエピソードもあります。
実はボラも出世魚
釣り人ならば知らぬ人はいないであろうボラも出世魚で、小さい順にオボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トドと呼称が変わります。「最終的には」「結局」を意味する「トドのつまり」はトドがこれ以上成長しないことに由来するそうです。
ボラは人によって美味しくない魚のイメージがありますが、美味な魚であり古くからボラを食用としてきたことはあまり知られていません。新鮮なボラは刺身や洗いで食べられている他、卵巣は高級食材であるカラスミの原料として利用されます。さらに白子はトラフグに遜色のない味にもかかわらず、価格が安く知る人ぞ知る珍味なのです。
また、イナの腹にしいたけや銀杏の入った豆味噌を詰めて焼いた「イナまんじゅう」は、愛知県蟹江町の郷土料理としても知られています。
魚の成長段階によって何度も呼称を変えるのは日本ならではでしょう。1種に複数の名前があることはややこしいですが、全部覚えてみるのも面白いかもしれませんね。
(サカナト編集部)