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サカナはなぜ釣れる? 魚と釣り人の知恵比べ『魚の行動習性を利用する釣り入門』ブックレビュー

魚はなぜルアー(擬似餌)で釣れるのか、魚から釣り人はどの程度見えているのか、疑問に思ったことはありませんか?

書籍『魚の行動習性を利用する釣り入門 科学が明かした水面下の生態のすべて』(著:川村軍蔵(2011)/発行:講談社)では、様々な実験や統計から、魚の行動学と釣りを紐解いています。

魚を知るところから始める釣り入門

私自身はあまり釣りの経験がありませんが、家族はよく釣りをします。なので、どのような釣りがあるのか、また、この魚にはこの釣具がいいといった話を聞く機会が多くあります。

釣り人たちの話を聞くたび、「魚たちはカラフルなルアーの見分けがつくのか?」「一度警戒した魚は釣れることがないのか」と、疑問に思うことがありました。

様々な種類があるルアー(提供:PhotoAC)

『魚の行動習性を利用する釣り入門』では、釣りにまつわる疑問を魚の行動習性や生態をもとに解説しています。

著者の川村軍蔵さんは、魚類の行動生理学と感覚生理学を専門に研究している、鹿児島大学名誉教授です。これまでも多くの著書を出版しており、魚の行動について造詣があります。

本書の中では、ご本人の釣りや現地調査の中での体験エピソードも紹介されています。

魚は匂いや音をどの程度感じているのか?

第1章は<魚を知る>と題し、魚たちがどのような身体能力を持っていて、それに基づきどのような行動習性を持っているかを紐解いていきます。

本章では、魚の視力に関する実験を中心に、魚がどのような感覚能力をもっているのかが語られます。

サカナの視覚はどうなっている?(提供:PhotoAC)

特に印象的だったのは、水中のコントラストに関する実験の話です。魚は濁った視界でも、水中のコントラストが一定以上あれば、人よりもはっきりとモノを見ることができるのだといいます。

どのくらいのコントラストがあれば、魚は物体を見ることができるのか──本書はそのような、ふと気になる疑問を解決できる一冊なのです。

魚も神経症になる? 視力を測る実験での一幕

では、魚の視力をどのように計測するのでしょうか。

水槽にいれた魚に、ふたつの光る図形を見せ、片方の図形の前でエサを与えることで、特定の図形の前に魚が来るように訓練をします。その後、図形を形作る光を弱めていき、魚が正解の図形を判別できなくなれば、そのコントラストが魚が見える限界です。

難しい訓練をすると魚も疲れ、神経症になってしまうといい、休むとまた実験ができるようになります。「繰り返し難しいことをすると疲れてしまう」ということを知ると、魚たちがより身近な生き物のように感じられますね。

魚たちの協力によって得られた実験結果を簡単に紹介すると、水の透明度や光にもよりますが、人間では10メートルほどしか見えない視界でも、魚たちは17メートルほどは見えているようです。

つまり、釣りの仕掛けが見えにくそうな水中の環境でも、魚からはよく見えているのです。

技術が進歩しても「必ず釣れる釣り」ができないワケ

釣り人は魚を釣るために、多くの知恵と工夫を凝らしてきました。

日本だけでなく、世界中で多種多様な釣りの方法が生み出され、今もなお多くのメーカーや釣り人が用途別の釣り具や釣りのノウハウを発表しています。

伝統漁具から発展したエギ(提供:PhotoAC)

進化し続ける釣りの技術ですが、それでも「初心者でも必ず釣れる」ような釣りの方法がないところも、釣りの面白いところです。

必ず釣れる釣りエサや仕掛けができない理由の一つが、「人間が魚の行動習性をよく知らないためだ」と著者は語っています。魚の生態を知れば、より釣れる釣具を作ったり、釣りの技術に生かしたりすることができるのかもしれません。

釣りエサやルアーの科学を紐解く

本書の3章と4章は、釣りエサやルアーについての研究が主題です。魚に味の好みはあるのか、好きな色はあるのかなど、科学的な観点から考えていきます。

ルアーについて特に興味深く感じたのが、音を出すルアーにまつわる話。

とある教授が釣り具メーカーからルアーの改善を頼まれ、音を出す部分を改良したところ、評価があがったそう。しかし、ルアーが出す音が偽物だと魚たちが学習し、釣り場がスレてしまうことが懸念され、製造は中止になってしまったといいます。

「釣れるから良い」ではなく、周囲に与える影響のことも考慮し釣り具を作らなければならない釣具メーカーや開発の苦労を知ることができました。

このほかにも釣りのポイントやタイミングにまつわる話や環境の話などがあります。

少し専門的で難しい話も多いですが、ご紹介したような印象的なエピソードなども織り込まれているので読んでいて飽きません。トピックも細かく分けられているので、気になった章から読んでみるのもオススメです。

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秋津

幼少期から魚が大好きで、祖母が作ってくれた魚のぬいぐるみと過ごす。大人になってからも水族館や魚グッズを集めてまわる。うつぼが好きすぎて結婚指輪もうつぼにしてもらう。

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