ヒトが自然を求める理由
前述したハンセン氏も、ヒトの身体や脳は原始時代(自然環境)に適応して作られているため、適度なストレスや運動負荷、自然環境がないと、悪性のストレス・不安・孤独を感じ、それが適応障害や鬱病に繋がると主張しています。
すなわち、ヒトが余暇に自然へ赴くのは、原始時代の脳が私たちに「刺激が欲しい!」と訴えかけ、それに応じた結果と考えることができるのかもしれません。
ダイビングで出会ったウツボ。私は刺激が欲しかったのかも?(提供:みのり)また小林氏は、「生物認知専門領域」を活性化させることが、生物に対する知識や愛着を発達させ、環境保全などにも繋がると述べています。
実際に小林氏は、「野生動物との接触体験が豊富であるほど、自然環境保全意識も高い」という調査結果を出しています(『先生、脳のなかで自然が叫んでいます![鳥取環境大学]の森の人間動物行動学』(著:小林朋道/築地書館)に詳しい)。
ヒトは元から自然を求める生き物であり、またその体験が健全な脳を発達させ、環境保全にも繋がるということです。
ヒトは生態行動に惹かれる動物
かつて筆者が水族館に勤めていた際、タッチプールの生き物を怖がる子どもがたくさんいました。
しかし、彼らのほとんどはこちらから丁寧に指導すれば、最後は自分から生き物に触れるまでに変わりました。親御さんが「もう行くよ」と言っても聞かない子までいました。
あれだけ生き物を怖がっていたのにです。これは偶然でも何でもなく「生物認知専門領域」を活性化させる適切なアプローチを行えた結果だと思います。
タッチプールに群がる子供たち(提供:みのり)また小林氏は「ヒトは他の生き物の生態行動などに敏感で、それらに特に関心を示し記憶にとどめる」と主張しています。この主張に関しても同氏は調査・研究を行い、それらを支持する調査結果を出しています。
実際に水族館でも何かとニュースや話題になるのは、生き物たちの不思議な生態行動であることが多く、動物園でも北海道の旭山動物園などが生態展示を行い、全国的な話題へと発展しました。
ホンソメワケベラのクリーニング行動。ついつい見入ってしまう(撮影:みのり)何故水族館は本物の生き物を飼育展示するのか。種の保存や研究といった側面もありますが、前述までの視点で見れば、本物の生き物でしか得ることのできない側面があるからだといえます。