私が人生で初めて飼育した水生生物であり、大好きな生きものなのが熱帯魚の「ベタ」。
1人暮らしを始める際に一緒に暮らすパートナーを探していたところ、ホームセンターで一目惚れして家に迎えました。
しかし、当時の私は生きものを飼うこと自体が初めて。お迎えする際、「健康な個体かどうか」なんて考えてもいませんでした。
だんだんとなくなる背びれ
家に帰った後、水合わせなどを済ませ水槽に入れたところで、じっくりベタを観察しました。
全体的に鮮やかな青色で、腹びれと尻びれに赤色が少しだけ入っているのが美しく、泳ぎ方もとても優雅です。水槽に近づくとすぐにこちらを観察しに来るくらい人懐っこくて、あげた餌には水槽から飛び出す勢いで食いつきます。

水草を入れると、葉っぱの上で休んだり、草の間を素早く泳いで遊んだりとかなり自由。そんなベタにすぐに虜になったのを覚えています。
ベタを飼い始めて1週間。「飼い始めたときから、なんだか背びれが曲がったまま治らない」と気がつきました。
そうとは言っても、かなり餌への食いつきが良く、定期的に鏡を見せてフレアリング(ヒレを広げて威嚇する行為)させている際も違和感がなかったので、一旦様子を見ることに。

ところが、そこから2週間経っても、背びれは良くなるどころか日に日に溶けていきました。ここでやっと「もしかしたら、病気かも……」と気がつきました。
慌てて観賞魚を専門で取り扱っている店へ行き、写真を見てもらいました。そして、ヒレが裂けたり溶けたりする「尾ぐされ病」だと判明。店で薬を買い、家に帰ってすぐに薬浴をスタートしました。
のびてきた背びれ

1週間ほどして背びれが溶けるスピードが落ち着き、少し回復してきたようだったので薬浴を終えました。
そして、病気以前よりも徹底して温度管理をするようになると、目に見えて元気に。折れて一時は溶けてなくなった背びれも、2~3か月かけて奇麗にのびたのです。
命の繊細さを教えてくれたベタ
ベタの飼育を始めたばかりの時は、「魚を飼うのは簡単だろう」という身勝手な傲慢さがあったと思います。しかし、小さな熱帯魚も私と同じ生きもの。病気もするし、しっかりケアしなければ命を落とすこともあります。
私に、魚の愛らしさとともに命の繊細さを教えてくれたベタ。他の魚を飼っても、最初に飼ったこの背びれの折れたベタが忘れられません。
私は「ベタ」という魚を、この世でいちばん愛しています。
(サカナトライター:井村詩織)