サカナをもっと好きになる

キーワードから探す

知る

信仰が環境保護につながる? <かめ塚>や<禁足地>など具体例をもとに考えてみる

「神道」は開祖や教祖、教典を持たず、森羅万象あらゆるものに神が宿るという思想に基づく、日本の宗教です。

神道は海や水生生物とも深い関わりがあり、またそのような思想が環境保全に繋がるという意見もあります。

そんな神道と海の関係性をまとめました。

ヒトは「物語」を信じる動物

いきなりですが、神さまという存在を「自然界の事実」として見るなら、それは実在しないのかもしれません──しかし、宗教は人間が生み出した「想像上の秩序」として、長い歴史の中で社会を支えてきました。

お金も同じく、紙幣や硬貨そのものに価値があるわけではありません。それを「価値がある」とみんなが信じているからこそ、経済が成り立っています。

宗教もお金も、国家や企業、SNSまでも、人間が共有する「物語」によって現実の力を持つようになったものです。つまり、私たちの社会は「想像を共有する力」で成り立っていると言えます。

この「物語を信じ、他者と共有する力」こそが、人間を他の動物と分かつ最大の特徴といえるでしょう。

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)(著:ユヴァル・ノア・ハラリ/訳:柴田裕之/発行:河出書房新社)』

こうした考えについては、『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)』(著:ユヴァル・ノア・ハラリ/訳:柴田裕之/発行:河出書房新社)に詳しく書いてあるため、興味のある方はぜひ読んでみてください。

海や海洋生物にも神が宿る?

日本における「想像上の秩序」、つまり人々が信じている物語として「神道」があります。神道は自然環境を含めた、森羅万象あらゆるものに神が宿る「日本人独自の物語」ともいえるでしょう。

すなわち、神道を通して自然環境をみてみると、日本人と自然との関わり合いの歴史が見えてくるのです。

あらゆる自然物や無生物に、霊魂や精霊が宿っていると信じる思想・信仰形態を「アニミズム」といいます。もちろんアニミズムは、海や海洋生物をも対象とします。

ウミガメを供養する「かめ塚」

静岡県御前崎市にある「駒形神社」では、神様がウミガメに乗って上陸してきたという伝説が伝えられています。浜で死んだウミガメを埋葬して供養する「かめ塚」が存在します。

アオウミガメ(提供:みのり)

ウミガメを敬い、大切にするという心が、浦島太郎伝説(ウミガメを助けるシーン)にも繋がっているのではないかと考察する学者もいます。

「古事記」の神武天皇東征の段にも、国津神が亀に乗って登場する場面があります。

小笠原諸島父島(提供:みのり)

御神体として崇められてきた沖ノ島

玄界灘に浮かぶ沖ノ島と呼ばれる島は、「神宿る島」とも呼ばれる島。

島そのものが宗像大社沖津宮の御神体とされており、女人禁制、男性でも一般人は毎年5月27日の現地大祭以外は上陸が認められてきませんでした。さらに、2018年からは研究者らを除く一般人の上陸は全面禁止とされています。

長い歴史の中でほとんど人の手が入っていないため、非常に多様な生態系が育まれているそう。沖ノ島周辺は実際に好漁場とされており、多くの漁師が仕事をしています。宗像大社の秋季大祭では、宗像漁協の組合員が三女神の御神体を乗せた御座船として出港します。

漁師の方々も、海の安全や豊漁を祈り、この祭事に取り組んでいます。

「アワビ採りうた」にも表れる自然信仰

アワビが有名な三重県伊勢市の志摩には、「アワビ採りうた」という民謡が存在します。

「ついよ、ついよ、ついよ、竜宮の孫さんよ、行ったらくだされ、ほたほたと(私は竜宮の孫さんですよ、アワビを採りに潜ったら、岩から緩くなって採りやすくなったアワビをいただきます)」

こうした民謡でも、海産物を必要以上にむやみやたらに獲るのではなく、「いただいている」という発想が受け継がれているのです。

黒い潜水服を着て潜ると採りすぎてしまうから、海女さんの潜水服は白いという言い伝えも存在します。

これらの例を見てもわかる通り、自然を信仰する心が、自然環境を守ることに繋がっているのです。

神道を通して環境保全?

神道を研究する学者たちの中には、近年こうした自然環境への敬意やしきたりが薄れたことが環境破壊にも繋がっているのではないかと指摘する人もいるようです。

環境科学や保全学では、環境破壊を科学的に考えて懸念し、そのような側面を知ってもらうために環境教育が大切だと主張します。

神道やアニミズムの観点で見れば、自然環境への関心と理解、敬意が薄れたことが、過度な環境破壊・開発に繋がっているといえる部分もあるといえます。同じように自然環境を知る機会、それらを敬う心を取り戻す必要があるといいます。

分野は違えど、どちらも過度な環境破壊を懸念しており、また自然教育・自然を敬う心を育む機会が重要であるという点は同じです。また冒頭の通り、自然を敬う心は「日本人独自の生態」であるといえます。

水族館で伝承に基づく展示も

近年の水族館では、科学的な面だけでなく、日本の伝承などに基づいて自然環境を紹介する展示も増えてきています。

これらは「日本人独自の生態」を育み、環境保全を促す展示といえるでしょう。神道やアニミズムの観点が、環境保全にも繋がるということです。

これは「日本の水族館」だからこそ可能な特有の展示になるのではないでしょうか。

『自然と神道文化1 海・山・川(編:神道文化会/発行:弘文堂)』

神道と自然環境については、『自然と神道文化1 海・山・川(編:神道文化会/発行:弘文堂)』にも詳しく載っています。

宗教か科学か──どちらか一方が大切というわけではなく、どちらも大切にして、日本人と自然環境を繋ぎ合わせることが大切になってくるのかもしれませんね。

(サカナトライター:みのり)

  • この記事の執筆者
  • 執筆者の新着記事
みのり

みのり

センス・オブ・ワンダーを大切に

水族館に関するお話やフィールドワーク体験の記事を中心に、自然環境の素晴らしさやそれらを取り巻く文化的なお話もお伝えしていきます。

  1. 信仰が環境保護につながる? <かめ塚>や<禁足地>など具体例をもとに考えてみる

  2. 野生の<シロザケ>を求めて北海道へ 道東の自然河川で観察したサケの最後の瞬間

  3. 湖で生きることを選択した<ヒメマス> 朝の屈斜路湖に現れた神々しい魚を観察してみた

関連記事

PAGE TOP