日本人に親しまれている魚の一つであるサケ。標準和名はサケですが、広義のサケ類の意味と区別するために一般的には「シロザケ」として浸透しています。
川で産まれて海へくだり、産卵期になると自分が産まれた川に遡上をすることでよく知られています。その姿はサケが生きてきた証ともいえるでしょう。
兼ねてより見たくて見たくて仕方がなかった野生のシロザケ。筆者は10月中旬、北海道東部(以下、道東)を訪れ、ついに念願だった野生のシロザケたちを観察することができました。
シロザケの生態紹介を交えつつ、シロザケ観察の様子を綴ります。
誰でもサケの観察ができる水族館
2025年現在、野生のシロザケはフィールドまで出向かずとも、水族館で観察することが可能です。
北海道千歳市にある「サケのふるさと 千歳水族館」や標津郡にある「標津サーモン科学館」には本物の川の中を覗ける水中観察窓があり、野生のシロザケの遡上や産卵の瞬間を観察することができます。
ヒグマに遭遇するリスクがあるフィールドに行かなくても、安全にシロザケを見ることができるのです。誰もがフィールドワークをできるはずもなく、また、多くの人が自然へと赴いてしまうと、どうしても環境への負荷が大きくなります。そのような中、手軽かつ安全にシロザケ観察ができるのは、水族館だからこそ可能な利点です。
しかし、「自分の足で自然へと赴き、自分の目で直接シロザケを見ること」にこだわっていた私は、サケマス観察初心者が通るべきであろう水族館の水中観察窓をすっ飛ばして、直接道東の河川へ向かうのでした。
産卵を終えた力尽きたサケ<ほっちゃれ>
シロザケ遡上&産卵を観察できるというポイントに到着し、まず目に飛び込んできたのは「ほっちゃれ」たち。ほっちゃれとは北海道の方言で、産卵を終えた力尽きたサケのことです。
川岸のそこらじゅうにほっちゃれが散らばっています。腐敗が進んだほっちゃれも多くあり、悪臭がするものもありました。
シロザケのほっちゃれ(撮影:みのり)しかし、海を旅してきたこのサケたちが山で死ぬことで、その死骸が様々な動物の食物になり、土に還るので、山に恵みをもたらしているのです。そう考えると、美しい死にざまであるともいえます。
そんなほっちゃれの周りをよく見ると、水面がバチャバチャと揺れています。そこには、熾烈な争いを繰り広げているシロザケのオスの姿……!
最後の大仕事 サケは死にに行く
ついに会えました、野生のシロザケです。もう上から見下ろすだけでも、その体色がかっこいい。
これから死にに行く、人生(鮭生?)最後の大舞台にこんな美しい色彩が現れるという、自然が意図せず創り出した美しい光景に思わず唸ってしまいます。
野生のシロザケ、オス(撮影:みのり)私が岸辺まで降りて近づいても、彼らは戦うことをやめません。なんとか自分の遺伝子を優先的に残そうと必死なのです。
争うシロザケのオス(撮影:みのり)シロザケは繁殖行動が終わればあとは死ぬだけ──最後の大仕事に、他のオスのシロザケにも私にも構っている余裕などないのです。
身体がボロボロで満身創痍のメスのシロザケ
動き回っている彼らを至近距離で撮影することが難しかったため、90cmまで伸びる自撮り棒の先にGoProを取りつけて水中撮影をしました。
シロザケたちはすぐに流木の隅に隠れてしまいましたが、なんとか争うその瞬間を捉えることができました。よく見ると、すでに身体がボロボロです。
争うシロザケのオス(撮影:みのり)シロザケのメスも至近距離で撮影できました。かろうじて呼吸を維持し、生き永らえているという状況でしょうか。
メスのシロザケ(撮影:みのり)このメスの身体もボロボロの満身創痍。この記事を執筆している今頃は、この子もほっちゃれになっているかもしれません。
知床で見た荒々しいシロザケたちの遡上と過酷な環境
最初に訪れたポイントとは別に、知床の某河川のシロザケも観察しに行きました。
先ほど観察した河川よりも急流で、荒々しいシロザケたちの遡上の様子が伺えます。このシロザケという魚、上から見ても非常に美しくかっこいい魚だということがわかります。
過酷な北の海と過酷な川に揉まれながらも生き残り、最後の雄姿を見せつけてくれるのです。
知床の川を遡上するシロザケ(撮影:みのり)そんなシロザケの雄姿を目に焼き付けていると、小さくカワイイ鳥がシロザケたちのすぐ横でモゾモゾしています。おそらくカワガラスです。
てっきり、水浴びでもしているのかと思いましたが、カメラのシャッターを連続で切っていると……。
タマゴを食べている!(撮影:みのり)なんと、たったいま産み落とされたばかりのシロザケのタマゴを1粒ずつ摘まみ上げて食べていたのです!
他の魚や水中生物のみならず、水上の鳥までもがタマゴを狙っているとは……そんな過酷な環境を生き延びて育った彼らの待ち受ける運命が、この最後の遡上です。
改めて考えると、波乱万丈すぎる人生(鮭生)だなと感じました。
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