中国で絶滅したとされていた世界最大の両生類、スライゴオオサンショウウオが日本国内の水族館で飼育されていることが発見されました。
スライゴオオサンショウウオという種類をはじめて聞く人もいるのではないでしょうか。今回の研究の経緯と今後の展望に併せ、スライゴオオサンショウウオについて紹介します。
日本で見つかった中国の絶滅種 その理由は?
京都大学の西川完途地球環境学堂教授と松井正文名誉教授は、国立科学博物館、琉球大学、北九州市立いのちのたび博物館などの研究グループと共同で、中国で絶滅したと考えられていたオオサンショウウオの一種が、日本国内の動物園と水族館で1頭ずつ飼育されていることを発見しました。
外来種であるチュウゴクオオサンショウウオは1960年以降に持ち込まれ、現在は日本の在来種であるオオサンショウウオとの交雑個体群の形成・増加により問題となっています。
この研究では、日本の在来種であるオオサンショウウオと外来生物であるチュウゴクオオサンショウウオとの交雑個体を選別をする目的で、京都市の鴨川のサンプルと、三重県と奈良県のオオサンショウウオ、さらに、徳島県の河川で捕獲されたものと動物園、水族館、個人宅で飼育されていたチュウゴクサンショウウオの遺伝子型を調査しました。
その結果、交雑個体が45匹、チュウゴクサンショウウオが28匹みつかりました。そして、後者のなかに中国では野外絶滅したとされていたスライゴオオサンショウウオが4匹見つかったそうです。そのうち現在も生存しているのは2匹でした。先述の通りチュウゴクサンショウウオが持ち込まれたときにスライゴオオサンショウウオが紛れていたと考えられています。
スライゴオオサンショウウオはオオサンショウウオのなかでも最も大きくなる世界最大の両生類。元の生息地では既に絶滅してしまった種類です。生存がわかった2匹は両方ともオスであるため交配は難しいかと思いきや、死んでしまったメスの細胞組織を冷凍保存していることもわかったそう。ここから、メスの細胞組織を用いたクローン個体の復活と、その個体を用いた人工繁殖を検討しているとのことです。
種の存続に関わるのみならず、この種に関する論文にミスがある可能性も見つかり、分類に関する研究も進展しました。
(参考:絶滅したオオサンショウウオが生きていた!―外来種が救う種の絶滅?―-京都大学)
近年発見されたスライゴオオサンショウウオ
スライゴオオサンショウウオは、世界最大の両生類。このニュースで初めてこの名前を見る方も多いのではないでしょうか。世界最大の両生類なら、既にみんなが知っているようなメジャーな種なのでは?と思いますが、それには理由があります。
はスライゴオオサンショウウオは、かつて新種とされながら、後の研究でチュウゴクサンショウウオとに含められてしまいました。しかし2019年、英国の研究者が博物館に保存されていたチュウゴクサンショウウオの標本を分析したところ、少なくとも3種は存在することが明らかになったのです。そのうち最大である種がスライゴオオサンショウウオと名付けられました。南中国の個体群であったことから、英名は「South China giant salamander」。
日本のオオサンショウウオも絶滅が危惧されていましたが、それは中国も同様です。スライゴオオサンショウウオに関しては2019年に新しく学名が付けられたものの、2024年現在、既に野外個体は絶滅しているとのこと。生息地の消失や密猟に加え、養殖業者による川への放流による遺伝子のかく乱により種の交雑や淘汰が起きていることが理由と考えられています。
答えのない外来生物問題と向き合うきっかけに
外来生物が関わる問題は、皆さんもご存じの通り正解がありません。今回のように、外来生物として問題になっている動物も、種の保存の観点からして肯定的な事実が発見されることもあります。この研究は、私たちが自然、さらには生き物、種のことを考え、向き合っていく手がかりとなり得るのではないでしょうか。
(サカナト編集部)