「海山(かいざん)」とは海底に形成された山のような地形で、深海生物の住処としてはもちろん、鉱物資源の存在も明らかになっています。
特に海山の斜面などを覆うように分布するコバルト・リッチ・クラストは、レアメタルなどの供給源として注目されている鉱物資源です。そのため、海山が将来的に金属の供給源として採掘される可能性があるとされています。
海山には多くの生物が暮らしていることから、開発がそれらにどのような影響を与えるのか評価する必要があります。とはいえ、海山は深海の中でも未知な部分が多く、商業規模の採掘も行われてこなかったため、これまで詳しいデータは得られていませんでした。
そうした中で、国立研究開発法人産業技術総合研究所ネイチャーポジティブ技術実装研究センターの齋藤直輝氏らはシミュレーションを用いた、海山間の生態の連結を解明。海山生態系における重要な海山を見出しました。
海山の資源に注目が集まる理由
海山は海底に形成された山のような地形で、魚や甲殻類、サンゴなど多種多様な生物の住みかとなっています。
生息する生物の中には漁業対象魚も含まれており、キンメダイやクサカリツボダイなど海山の魚は漁獲、消費されてきました。一方、海山は鉱物資源も多く存在することが知られています。
新たな金属資源の供給源「コバルト・リッチ・クラスト」
特に海山の平頂部や斜面を覆うように分布するコバルト・リッチ・クラストは、新たな金属資源の供給源として注目されている鉱物資源です。
プラチナ(提供:PhotoAC)鉄やマンガンの酸化物を主成分とするコバルト・リッチ・クラストは、コバルトやプラチナ、マンガン、ニッケルなどのレアメタルも含むことがわかっています。
北西太平洋にはこのコバルト・リッチ・クラストが多く分布し、将来的に採掘の対象になることが予想されています。
一方、前述の通り海山は多くの生物の住処でもあることから、海山に開発が生物たちにどのような影響を与えるか評価する必要があるとの指摘があります。ですが、海山における商業規模の採掘が行われておらず、生態系に与える影響は未知数でした。
海山生態系は相互連結
海山における生態系は、それぞれが孤立しているのではなく、海山同士が互いに連結していると考えられています。
この生態系の繋がりを形成しているのは、海流に乗って分散する浮遊幼生。エビやサンゴなど、孵化直後の浮遊幼生が海流に乗って分散し、遠くの海山へ運搬され定着し、海山の間で遺伝的な繋がりが形成されます。
海山の生物たちは集団の遺伝的健全性を維持し、局所的な絶滅のリスクを低減させているのです。
北西大西洋(提供:PhotoAC)これらのことから、海山における開発が生態系に及ぼす影響は、孤立した海山だけだはなく、海山同士の連結も理解する必要があるとされています。しかし、海山における生物のサンプリングは難しく、これまで生態系の連結が遺伝子解析により行われていたものの、十分な知見は得られていませんでした。
そこで、国立研究開発法人産業技術総合研究所ネイチャーポジティブ技術実装研究センターの齋藤直輝氏らは、北西太平洋にある18の海山を対象に浮遊幼生の分散シミュレーションを実施。海山における生態系の連結を可視化を目指しました。
重要な経由地が明らかに
分散シミュレーションの結果では、調査対象になった18の海山すべてで、1つ以上の他の海山との連結が見出されています。
さらに、コバルト・リッチ・クラストの探査対象となっていた6つの海山をネットワークの頂点から除くと、海山間の連結が東西で著しく低下することが明らかに。一方、探査対象の海山のうち、Arnold海山とMalony海山を残した場合では、東西の連結が保たれることが示されています。
これにより、Arnold海山とMalony海山が浮遊幼生の分散における経由地として、非常に重要であることがわかったのです。
保全区域の設定などに貢献
今回の研究により、浮遊幼生による海山間の遺伝的、生態的な連結が明らかになりました。加えて、海山間の連結を維持するために重要な2つの海山も判明しています。
これらの知見は、海山の連結を維持する上でどこを保全区域にするかなど、海洋鉱物資源開発に向けた適切な計画に貢献するでしょう。
この研究成果は「Ecological Applications」に掲載されています(論文タイトル:Seamount larval dispersal networks: a potential strategy for conserving ecological connectivity from deep-sea mining)。
(サカナト編集部)