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水産加工排水が資源に! 未処理のまま<藻類>と<細菌>が共存する培地に転換

家庭や工場から排出される廃水。

中でも水産加工排水は、タンパク質や脂質に由来した有機物や窒素などを多く含むため、処理が難しいことが知られています。

そうした中、静岡大学の研究グループはカツオ加工廃水を未処理のまま培地として利用する培養実験を実施。廃水を資源化できる可能性を見出しました。

水産加工廃水は処理が困難

海で囲まれた日本では古くから漁業が盛んであり、各地で魚や貝など様々な水産物を食してきました。

これらの水産物はそのまま焼いたり煮たりして食べることもありますが、加工して食べることも少なくありません。日本で製造されている水産加工品として練り物や乾物が挙げられ、いずれも日本食に欠かせない食品です。

かつお節(提供:PhotoAC)

一方、水産加工品を作る過程で出る廃水の処理は水産加工における大きな課題にもなっています。タンパク質や脂質に由来する有機物、窒素、リンを高濃度に含むことから処理が困難であるとされています。

この水産加工廃水については、これまでに研究が進められてきましたが、処理のプロセスに焦点を当てたものが中心となっています。

カツオ加工の廃水に着目

近年は廃水を単に処理するのではなく、資源として活用する動きが進んでいるようです。

中でも、藻類は光合成で廃水中の栄養塩を取り込みながらバイオマスを生成することから、エネルギー素材としての応用が期待されています。

また、自然界で普遍的に見られる藻類と細菌の共生では、藻類が光合成で有機物を供給、細菌が有機物の分解や窒素循環を行うことで代謝ネットワークを形成。このことから、廃水環境でも藻類と細菌の間で、共生関係が形成させる可能性が考えられてきました。

そうした中で、静岡大学大学院総合科学技術研究科の加賀稜健氏と長尾遼准教授らからなる研究グループは、カツオをメインに扱っている静岡県焼津市の加工施設から出る廃水に着目。施設から得られた未処理の廃水を用いて培養実験を実施しました。

未処理の廃水が資源に

今回行われた研究では、カツオ加工施設から得られた廃水を未処理で培地へと転換する試みが行われています。

未処理の廃水に自然適応した藻類–微生物複合系を直接接種した結果では、培地が9日以内に緑色へ変化し、クロロフィル濃度が初期の約5倍に増加。廃水の中の栄養分がバイオマスへと転換されたことが分かったのです。

(提供:国立大学法人 静岡大学)

さらに、微生物が利用できる栄養源でもあるDOC(水に溶け込んでいる有機物由来の炭素成分の総量)は、9日間で急速に減少し約85パーセントが除去されたとのこと。一方、アンモニアイオンは一時的に増加した後、緩やかな減少が認められたことから、細菌が分解で出したアンモニアを藻類が利用する「有機態窒素の鉱化–同化連携」が機能していると考えられています。

また、遺伝子解析ではクロレラ属の緑藻が優占しており、Erythrobacter属やParacoccus属の細菌との共存が確認されています。

持続可能な廃水利用に期待

今回、静岡大学の研究グループは、カツオ加工廃水を未処理かつ希釈なしの状態で培地に転換することに成功しました。これは廃水をただ処理するのではなく、そのまま培養資源に転換する活用方法を提示するものでもあります。

将来、この手法により得られる光合成バイオマスがエネルギー素材として利用されることがあるかもしれません。持続可能な廃水利用として今後の研究にも期待したいですね。

今回の研究成果は「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」に掲載されています(論文タイトル:Cultivation of a native microalgae–bacterial consortium in seafood processing wastewater primarily from skipjack tuna)。

(サカナト編集部)

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サカナト編集部

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