大部分が氷で覆われたグリーンランド。デンマークの自治領であり、独自の自治政府が置かれた世界最大の島です。
この島には北半球最大の氷河「グリーンランド氷床」が広がっています。
氷床には“クリオコナイトホール”と呼ばれる無数の水たまりが存在し、多くの微生物が生息。この穴は炭素循環にかかわっているとされてきましたが、詳しいことは明らかにされていませんでした。
そうした中で、千葉大学大学院理学研究院の竹内望教授らから成る研究グループは、クリオコナイトホールを調査。穴の形状や微生物群構造の分析を実施しました。
グリーンランド氷床
地球の北に位置するグリーンランド。この島は面積のほとんどが北極圏に属し、大部分が氷で覆われています。
ここで見られるグリーンランド氷床は北半球最大の氷河。その表面には無数の水たまりがあります。
太陽の光を吸収する黒い物質<クリオコナイト>
氷床に分布する水たまりは、クリオコナイトホールと呼ばれ、太陽の光を吸収する黒い物質「クリオコナイト」が集積して形成されたものです。
この水たまりには無数の微生物が暮らしていることが知られ、“生命のホットスポット”とも呼ばれています。
また、微生物たちは二酸化炭素を取り込む役割をしており、極地の炭素循環に大きくかかわっていることが指摘されてきました。
調査地のグリーンランド氷床の中西部(提供:国立大学法人千葉大学)しかし、この関係については謎が多く、詳しいことは明らかにされていません。
そうした中で、千葉大学大学院理学研究院の竹内望教授らから成る研究グループは、クリオコナイトホールを調査。穴の形状や微生物群構造の分析を実施しました。
2タイプのクリオコナイトホール
調査の結果、クリオコナイトホールの形状が微生物群構造に大きな影響を与えていることが明らかになっています。
クリオコナイトホール(提供:国立大学法人千葉大学)また、クリオコナイトホールは「浅い不安定型」と「深い安定型」の2つタイプに別けられることも判明しました。
深さ5~15センチ程「浅い不安定型」では、融解水が流入・流出することにより、かく乱を受けるとされています。こういった環境では、かく乱に強く、強い光に耐性のある雪氷藻類が優占しているようです。
一方、深さ20~30センチ程の深い安定型なタイプでは、長期的に穴の形状が維持されており、光合成を行うシアノバクテリアが優占していたといいます。
炭素の蓄積量
2つのタイプで異なる微生物群集の違いは、クリオコナイトの炭素蓄積量にも影響を与えることがわかっています。
クリオコナイトホール内に生息する雪氷藻類(a, b, c)とシアノバクテリア(d,e)(提供:国立大学法人千葉大学)シアノバクテリアが優占する深い安定型の穴では、有機炭素が効率的に生産・蓄積されており、高い炭素含有量が示されました。反対に、浅い不安定型の穴は、頻繁に発生する水の流入により有機物が流されやすく、炭素の蓄積が妨げられ、低い炭素含有量が示されたといいます。
このことから、クリオコナイトホールの生態系は「高炭素の安定」と「低炭素の不安定」の2つの平衡状態を維持していることが明らかになったのです。
地球温暖化との関係
この結果は地球温暖化とも関係があるとされています。
温暖化により氷床の融解が進行すれば、クレバスと呼ばれる大きなひび割れが広い範囲に発達し、氷床の地形が不安定になるというのです。この変化はクリオコナイトホールを「深い安定型」から「浅い不安定型」へシフトさせる可能性があるとされています。
また、「浅い不安定型」へのシフトが広範囲で発生することにより、氷床の炭素生産と有機物蓄積が変化。これが、氷床の反射率にも変化を与え、氷の融解速度などにも影響を与えると考えられています。
氷床の将来予測に
今回の研究により、クレバスの形成などの氷床ダイナミクスが、クリオコナイトホールの生態系と深く結びついていることが示唆されました。
この知見は、将来的に氷の融解速度や極地における炭素循環の予測に役立つことが期待されています。
今回の研究は「Communications Earth & Environment」に掲載されてます(論文タイトル:Morphology shapes microbial ecosystems and carbon cycling within cryoconite holes on a Greenland outlet glacier.)
(サカナト編集部)