古代の生物の生きた証「化石」。
化石は世界各地で様々な分類群で発見されており、生物の進化を紐解く上で重要なものもとされています。
今回、北海道で発見されたのは新種を含む介形虫(かいけいちゅう)の化石です。
この成果は11月26日、「Journal of Paleontology」に掲載されています(論文タイトル:Early Pliocene ostracodes from the Takikawa Formation in Hokkaido, northern Japan, and the new genus Woodeltia moving in the North
Pacific Ocean. )。
1ミリに満たない甲殻類
介形虫(貝形虫)は体長1ミリ未満の非常に小さな甲殻類で、左右に2枚の殻をもつことが特徴です。
見た目がミジンコに似ていることからカイミジンコとも呼ばれています。地球上のあらゆる水域に広く生息し、一生を底生生活で過ごすします。そのため、分散能力が低く地域固有性が高いことも介形虫の特徴です。
介形虫はオルドビス紀以降に出現した分類群と考えられており、石灰質でできた殻が化石として残りやすいことから、これまで多数発見されています。
同時に、介形虫は古代の環境や生物進化を理解する上で重要な化石とされてきました。
北海道の介形虫
これまで、日本における鮮新世(約530万年前~260万年前)の介形虫化石の研究は、東北~九州で行われてきたといいます。
一方、中高緯度域の北海道では研究が行われておらず、介形虫化石群の空白地となっていたようです。そのため、北太平洋域における介形虫化石群の全容はわかっていませんでした。
滝川市(提供:PhotoAC)そうした中で、北海道大学大学院理学院自然史専攻博士課程の向井一勝氏、熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター准教授の田中源吾氏の研究チームは、北海道の深川層群滝川層から産出した介形虫化石群を調査。群集の多様性を解析しました。
介形虫化石群が産出した深川層群滝川層(約500万年前)は、北海道滝川市に流れる空知川流域に広く分布することで知られています。
アイヌ語に因んで命名
解析の結果では、2022年と2023年の調査で得られたサンプルから新属・新種を含む10属12種の介形虫化石が発見されています。
Woodeltia sorapuchiensis(提供:国立大学法人熊本大学)この新属は殻の形や殻の表面の模様、筋痕(きんこん)と呼ばれる殻の内側にある痕跡に特徴があることが確認されており、日本と北米から記載されたCeltia属6種に新種を加え、Woodeltiaと命名されました。
また、滝川層から発見されたWoodeltia属については Woodeltia sorapuchiensis と命名されています。種小名の”sorapuchiensis”は滝川市の語源であるアイヌ語の「ソラプチ」に因んでいるようです。
本州から北米へ
この研究では、Woodeltia属についてより詳しい調査も行われました。
これまでに記載・報告されたWoodeltia属の産出年代と堆積環境を比較した結果では、Woodeltia属が約1800万年前に日本の本州で出現し、北方へと分布を拡大させ、寒冷な気候に適応したと考えられています。
その後、より寒冷なベーリング海を経由して北米まで進出したとされ、Woodeltia sorapuchiensis は本属が温帯から寒冷な地域への適応したことを示す重要な種であることがわかったのです。
今後の研究にも期待
今回の研究により、新属・新種の介形虫化石が発見されました。また、本州で出現した介形虫が北海道からベーリング海を経由し、北米まで進出したいたことも明らかになっています。
一方、北海道における新第三紀以降の介形虫化石は記録が少ないようです。今後の調査で、介形虫化石の発見やその進化について明らかになることが期待されています。
(サカナト編集部)