我々人間は「自分が自分であること」を認識することができます。
しかし、この能力(=自己意識)は人間だけのものであはありません。イルカやチンパンジーをはじめとした、一部の動物でも自己意識が報告されてきました。
この自己意識の可否を確かめる方法として、マークテストが広く用いられているものの、合格率は低いことが知られています。また、これまでの研究ではマークテストに合格するかどうかに重きが置かれており、その過程などに焦点が当てられていませんでした。
そうした中で、大阪公立大学大学院理学研究科の研究グループは、ホンソメワケベラを対象に鏡を使った研究を実施し、ホンソメワケベラの自己意識を明らかにしました。
この研究成果は「Scientific Reports」に掲載されています(論文タイトル:Rapid self-recognition ability in the cleaner fish)。
動物の自己意識
言うまでもなく、人間は「自分が自分である」ことを認識することが可能です。
しかし、“自己意識”は人間特有のものではなく、これまでの研究によりチンパンジー、イルカ、カラスなどにもあることが知られてきました。
さらに最近の研究では、魚類のホンソメワケベラも自己意識があることが明らかになっています。
ホンソメワケベラは自分を認識できる
ホンソメワケベラはベラ科に分類される小型種です。
本種は温帯~熱帯にかけて広く分布し、日本でもよく見られるベラ科魚類の1つ。野生下だけではなく水族館でもおなじみの魚でしょう。
また、本種は他の魚についた寄生虫などを食べることから、「クリーナーフィッシュ」または「海の掃除屋」とも呼ばれています。
ホンソメワケベラ(提供:PhotoAC)そんなホンソメワケベラですが、自己意識があることが判明したのは2019年。大阪公立大学が実施した<鏡を用いた実験>により明らかになったのです。
この成果は“鏡に映った自分を認識できる魚類”を初めて報告したものであり、大きな話題となりました。
ホンソメワケベラにおける自己意識
大阪市立大学の研究グループは、その後もホンソメワケベラにおける自己意識の研究を継続。2024年にはホンソメワケベラが鏡に映る自分を見て、体長を認識できることを明らかにしました。
ホンソメワケベラ(提供:PhotoAC)さらに、11月25日「Scientific Reports」で公開された論文(Rapid self-recognition ability in the cleaner fish)では、同研究グループによりホンソメワケベラの自己意識について、さらなる検証が行われています。
この研究では、動物がマークを初めて触った瞬間を記録することが重要と考えられており、これまでの課題を解決すべく新たな手法によって実験が行われました。
寄生虫を模したマークに対する反応
現在のマークテストでは動物に鏡を長い時間見せた後に行われるようです。
これは、鏡を見せる前からマークすることで、動物がマークを自分の模様と勘違いしてしまうことを防ぐためとされています。
そこで、今回の研究ではホンソメワケベラがマークが自分の模様と勘違いしないように、寄生虫を模した赤茶色のマークが鏡を見せる前から付けられました。
魚は予想よりも早く自己を認知
実験の結果では、平均して82分でマークをこすり落とそうとする行動が確認されています。
従来、自己意識が生じるのは4~6日後とされていたようです。そのため、この結果は魚が予想よりも早く自己を認知できる可能性を示すものとなりました。
また、先行研究のデータの再解析では、鏡像自己認知に到達した前後の行動を混同している可能性が示されています。
自分以外を使った行動
さらに、餌のエビを使った実験では、鏡像自己認知に到達したホンソメワケベラで驚きの行動が確認されています。
なんと、ホンソメワケベラがエビを鏡の前まで持っていき、それを落下させて鏡に映ったエビと見比べるといった行動が確認されたのです。
これはホンソメワケベラが自分以外のものに対しても、鏡像の半髄性を検証しているものと考えられています。
鏡を使う動物では鏡像自己認知が確認される可能性
今回の研究により、ホンソメワケベラが鏡像自己認知に達するまでの時間は、従来考えられていたものより、ずっと早いことが明らかになりました。
また、鏡像自己認知に到達したホンソメワケベラで鏡の性質を検証する行動も見られたことから、鏡を道具として利用できる動物は鏡像自己認知に達していると考えられています。これは、鏡を使う多くの動物で鏡像自己認知が認められる可能性を示唆するものです。
今後の研究では、無脊椎動物を含めた多くの動物での自己意識研究が重要とされています。
(サカナト編集部)