サンゴ礁に住むクリーニングフィッシュとしてよく知られている魚、ホンソメワケベラ。実はこの魚、認知能力の高さを買われて研究対象になったこともあります。
この記事ではそんな不思議な魚・ホンソメワケベラの生態や特徴、サンゴ礁の魚たちとの関わりなどを解説します。
ホンソメワケベラの特徴 熱帯・亜熱帯に分布
ホンソメワケベラはスズキ目ベラ科に属する、12センチほどの小さな海水魚です。白と青のグラデーションがかかった体に太い黒帯が入った特徴的な体色をしています。
太平洋とインド洋の熱帯・亜熱帯の海に分布しており、日本近海でも房総半島以南で見ることができます。夏には、暖流に乗って北上した個体を東北地方や北陸地方で見ることもありますが、これらは冬には低温のため死んでしまい、定着することのない死滅回遊魚(季節来遊魚)だと考えられています。
サンゴ礁や岩礁域に生息しており、魚や甲殻類についている寄生虫や、魚のえらや口の中についた食べかすなどを食べています。
サンゴ礁にすむ魚たちの掃除屋さん
ホンソメワケベラは、魚たちが体を掃除しに来るクリーニングステーションに住んでいます。踊るような独特の泳ぎ方で、魚たちに掃除屋である自分のことをアピールします。とてもチャーミングな動きなので、観察する機会があればぜひ見てみてください。
掃除される魚たちはもちろんホンソメワケベラを食べることなく、その場にとどまって静かに掃除が終わるのを待ちます。掃除されに来る魚たちは大小さまざま。チョウチョウウオのような小さな魚から、時には大きなマンタの掃除をすることも。魚を掃除する姿は、ホンソメワケベラを飼育している水族館でも見ることができます。
ホンソメワケベラは魚たちの体から餌を得て、掃除される側の魚たちは寄生虫を掃除できるので、互いに利益を得ることができる共生関係である相利共生が成立しています。
その姿をコピーして生きるしたたかな魚も
ホンソメワケベラにとても似ている魚にニセクロスジギンポという魚がいます。青~白のグラデーションや太い黒帯はホンソメワケベラとそっくりです。
この魚はホンソメワケベラに擬態することで大型魚に安全に接近し、鱗や皮膚を鋭い歯でかじって食べ、素早く逃げてしまいます。英語では”False cleanerfish(偽掃除魚)”と呼ばれる有様。しかし、安全な掃除魚に姿を似せて食料を手に入れることは立派な生存戦略のひとつです。
見分け方として、踊るような独特な踊り方はしないこと、ホンソメワケベラの口が吻の先端に位置するのに対し、ニセクロスジギンポではやや下向きに位置することなどがあげられます。
鏡で「自分」を認識する!?
2019年、大阪市立大学大学院理学研究科の幸田 正典教授の研究グループは、ドイツのマックスプランク研究所などと共同で、魚類が鏡に映る姿を自分だと認識できることを世界で初めて明らかにしました(「鏡に映る自分」がわかる魚を初めて確認!~世界の常識を覆す大発見〜—大阪市立大学)。この研究対象に使われたのがホンソメワケベラです。
ホンソメワケベラは、先述の通り魚の寄生虫を取り除く掃除屋。実はこの掃除には高い認知能力が成せる技だといいます。ホンソメワケベラは魚の体表で見つけた寄生虫を取り去ろうとしますが、この研究では寄生虫に似た茶色の印をホンソメワケベラの喉につけると、実験個体8個体中7個体が鏡で喉の印を確認したあと、水槽の底で喉を何度も擦ったそう。これにより、本種は鏡像を自分だと認識することがわかりました。
さらに、喉を擦ったあと「寄生虫はとれたかどうか」を鏡で確認する行動も見られたそうです。この研究から、脊椎動物全般の認知能力を見直す必要があると結論付けられました。
ホンソメワケベラは特殊な熱帯魚
クリーニングステーションでの掃除や似ている姿で全く違う特性を持つニセクロスジギンポなど、ホンソメワケベラを通してサンゴ礁で暮らす魚たちの生活が垣間見えたのではないでしょうか。
彼らの生活には知らないことがまだまだたくさんあるのではないかと思わせてくれますね。
(サカナト編集部)