モノノケトンガリサカタザメの保全
本種を含むノコギリザメ目の魚はほとんどがCITES(the Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora: 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)のI種またはII種に指定されており、モノノケトンガリサカタザメをふくむシノノメサカタザメ科魚類はすべての種がII種とされ、国際間の取引が制限されています。
CITESと言えば、先日ウズベキスタンで行われた会議において、ウナギ類のII種入りの審議が行われ注目が集まりました(結果、否決された)。
一方、この会議のなかで本種を含むシノノメサカタザメ科魚類全種の商業的目的で取引される野生採取個体に対する輸出割当量をゼロにするという規定が採択されるなどしています。
これは先述のようにトンガリサカタザメの仲間は東南アジア各地で食用として過剰に漁獲されているということや、その背鰭の形状がサメによく似ているため、フカヒレ目的で乱獲されるおそれがあるということが背景にあるようです。
モノノケトンガリサカタザメの背鰭はサメのそれに似ている(提供:PhotoAC)また、軟骨魚類というのは大きく強い仔魚や、独特な形状でほかの魚に食べられにくい卵を産むなど生存能力には長けていますが、その反面、産まれる数は少なく成熟にも時間がかかるという特徴もあり、乱獲に弱いという側面もあります。
モノノケトンガリサカタザメの保全しながら利用するためには、本種について乏しい生息環境の情報や、繁殖生態の解明などが必要になります。
軟骨魚類(ネコザメ属魚類)の卵殻(提供:PhotoAC)例えば「いおワールド かごしま水族館」などでは本種の長期飼育が行われており、水槽の中で仔エイを出産したという事例があります。そのときの個体は残念ながら育成に至ることはなかったとのことですが、今後この事例で得られたデータが本種の保全に役に立つ日が来るかもしれません。
(サカナトライター:椎名まさと)
謝辞と文献
今回のモノノケトンガリサカタザメの入手にあたり、石田拓治さん(長崎魚市場 マルホウ水産)にお世話になりました。ありがとうございました。
Keita Koeda・ Masahide Itou・ Morihiko Yamada・ Hiroyuki Motomura. 2020. Rhynchobatus mononoke, a new species of wedgefish (Rhinopristiformes: Rhinidae) from Japan, with comments on Rhynchobatus laevis (Bloch and Schneider 1801). Ichthyol. Res. 68:223~238.
小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之編.2020.大隅市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館.鹿児島市.634pp.
中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野
本村浩之監修,2018.~かごしま水族館が確認した~ 鹿児島の定置網の魚たち 増訂版.鹿児島市水族館公社,鹿児島市.
下瀬 環.2021. 沖縄さかな図鑑.沖縄タイムス社,那覇.208pp.