希少生物の生きた姿を自分の目で観察できることは、水族館の大きな魅力の1つです。
日本各地にある水族館では様々な希少生物が見られ、中にはそこでしか生きた姿を見られない場合も少なくありません。
三重県伊勢市の「ゼロ距離水族館 伊勢シーパラダイス」が12月13日より一般公開しているオオノコギリエイはノコギリエイ科の1種で、国内でも2館した展示を行っていない貴重な魚となっています。
オオノコギリエイとは
今回、伊勢シーパラダイスで一般公開が開始されたオオノコギリエイ Pristis pristis はノコギリエイ科に属する軟骨魚類です。
本種は、展示エリアの見直しに伴い非公開となっていましたが、12月13日より公開が再開されました。
オオノコギリエイ(提供:株式会社伊勢夫婦岩パラダイス)名前に“ノコギリ”と付くことからもわかるように、吻が長いノコギリ状になっていることが大きな特徴。この独特な形をした吻を使い、魚を打ち落としたり、砂を掘り起こしたりするようです。
日本ではすでに絶滅?
そんなノコギリエイですが、これまで日本には1種(Pristis pristis)のみが生息していると考えられていました。
しかし、琉球大学と神奈川県立生命の星・地球博物館が近年おこなった研究により、日本には2種のノコギリエイ科が生息していたことが明らかになっています。
この研究では、標本調査により日本での分布が初めて判明した Anoxypristis cuspidata にノコギリエイを適用し、Pristis pristis には新しくオオノコギリエイの名が与えられてました。
ただし、残念なことに Anoxypristis cuspidata はすでに該当海域から50年以上も記録がないことが研究の中で明らかになっています。そのため、本種は日本の海産魚においては初となる「国内絶滅」として発表されたのです。
最長飼育記録を保持する個体
伊勢シーパラダイスで飼育されているオオノコギリエイは、1987年9月18日に搬入された個体。当時、この魚の国内における飼育記録は100日未満であり、飼育が難しい魚として知られていたといいます。
しかし、同館では飼育方法の研究・試行錯誤を重ねた結果、飼育年数は約38年に。現在、最長飼育記録を保持するまでに至っています。
ノコギリエイの吻(提供:株式会社伊勢夫婦岩パラダイス)年齢は搬入時の大きさから約38歳と推定。これほどまでの長期飼育は世界的にも珍しく、飼育下としては最高齢クラスの可能性もあるようです。
なお、ノコギリエイ科は説滅危惧種として国際的に保護されていることから、今後日本に新たな個体がやってくることは難しい状況とされています。
生物多様性の重要性を伝える存在に
今回、伊勢シーパラダイスで展示が再開したオオノコギリエイは、飼育下で約38年も生き続ける、ノコギリエイの中でも非常に珍しい存在です。同館はオオノコギリエイの展示を再開するだけでなく、生物多様性や保全の重要性を伝える役割を果たしていくといいます。
また、オオノコギリエイの給餌の際には、ノコギリエイの吻(標本)を用いた給餌解説が実施される予定。オオノコギリエイの展示は生物多様性について考える貴重な機会を与えてくれるでしょう。
詳しい情報はゼロ距離水族館 伊勢シーパラダイス公式WEBサイトで確認することができます。
※2025年12月26日時点の情報です
(サカナト編集部)