農業をするのはヒトだけではありません。世界には、自ら食料を育てる生きものが存在します。
よく知られているのが、キノコを栽培するハキリアリ。そして海には、「畑」を持つ魚がいるのです。
海藻を育てて暮らすクロソラスズメダイとその仲間であるスズメダイモドキの生態を交えながら、水族館や海で観察できる身近な魚たちの、少し意外な一面を見ていきましょう。
クロソラスズメダイってどんな魚?
クロソラスズメダイ(Stegastes nigricans)は、スズキ目スズメダイ科クロソラスズメダイ属に分類され、水深の浅いサンゴ礁域に生息する縄張り意識が強い魚です。
サンゴ礁(提供:PhotoAC)クロソラスズメダイは自分のエサとして、イトグサの一種であるハタケイトグサ(仮称はPolysiphonia sp.)を栽培することが分かっています。
主にハタケイトグサを主食とするため、自分の藻園で他の藻類が成長するとそれらを除去。また藻を食べる魚が自分の藻園に近づくと攻撃し、自分の藻園を守るそうです。
ハタケイトグサは他の藻類が増えると駆逐されてしまうため、クロソラスズメダイに守られなければ生き残れません。両者は互いに利益を得る、相利共生の関係にあります。
魚と藻が互いにとってかけがえのない存在であるという関係性には驚きますね。捕食関係にある生きもの同士がこのような関係性を持つことは非常に特殊で、この例は栽培共生とも呼ばれます。
農業をする魚は他にも
スズメダイモドキ(Hemiglyphidodon plagiometopon)はスズキ目スズメダイ科スズメダイモドキ属に分類されるクロソラスズメダイの近縁種ですが、この魚もイトグサ類が生えている場所を縄張りとしています。
自分のエサであるイトグサが他の魚に食べられないよう、近づいてくる魚を撃退するのです。ただ、実際には雑食で、イトグサを食べ切った場合や他のエサが豊富にある場合には縄張りを放棄することもあるといい、相利共生ではありません。
自分の藻園をパトロール中のダンダラスズメダイ(提供:PhotoAC)このように、藻食性スズメダイの近縁種はイトグサ類の藻園を守ることから、“農業をする魚”と言われています。
スズキ目スズメダイ科ダンダラスズメダイ属に分類されるダンダラスズメダイ(Dischistodus prosopotaenia)も自分の藻園を守ります。
ちなみに、筆者がモルディブの海でシュノーケリングをした際、藻のそばで警戒するクロソラスズメダイもしくはスズメダイモドキと思われる魚を見ました。
クロソラスズメダイもしくはスズメダイモドキと思われる魚(撮影:額田善之)スズメダイの仲間は体色や模様の個体差が非常に大きく、じっくり観察しなければ同定できませんが、文献や状況からどちらかの種だと考えられます。
クロソラスズメダイの仲間を観察しよう
自分の藻園や縄張りを守るスズメダイの仲間は暖かい海ではよく見られる魚で、和歌山以南の浅瀬のサンゴ礁ではよく観察されているようです。
栽培共生をするルリホシスズメダイ(提供:PhotoAC)彼らが生息する海に潜れば、自然の中でこれらの魚が自分の藻園を守る姿を観察可能です。今年の夏は、ぜひシュノーケリングやダイビングを楽しんでみてはいかがでしょうか?
(サカナトライター:額田善之)
参考資料
”Geographic variation in the damselfish-red alga cultivation mutualism in the Indo-West Pacific. BMC
Evolutionary Biology, 10: 185.Doi: 10.1186/1471-2148-10-185”