浅い海の底をゆっくりと這う小さな生物、ウミウシ。
その鮮やかな色彩と多彩な模様から、ダイバーの間では“海の宝石”とも呼ばれます。筆者も沖縄の海でダイビング中に初めて遭遇したとき、そのまばゆいほどの色鮮やかさに驚いたものです。
最新の研究では、このウミウシが持つ色の秘密は体表に並ぶナノサイズの「ピクセル構造」にあることが明らかになっています。
本研究は『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されています(論文名:Nudibranch color diversity shares a common physical basis in guanine photonic structure ‘pixels’)。
色素と構造色が複雑に組み合わさるウミウシの“鮮やかな色”
自然界の色の作り方は、大きく2つあります。
ひとつは色素による発色で、植物の緑や血液の赤がそれです。
もうひとつは「構造色」と呼ばれるもので、ミクロな凹凸や層が光を干渉・散乱させることで色を生み出します。CDの裏面がさまざまな色に輝いたり、クジャクの羽が青く見えるのも、この構造色によります。
マダライロウミウシ(提供:PhotoAC)これまでウミウシの色は、エサから取り込んだ色素によるものと思われていました。
それが実は、青や紫といった鮮やかな色は、色素と構造色が複雑に組み合わさってできたものだといいます。
スマホ画面と同じ原理
研究によると、ウミウシの表を詳しく調べた結果、色は均一なわけではなく、直径0.2〜16ナノメートルの小さなピクセルが集まって構成されていることが明らかになりました。
各ピクセルの内部には、DNAにも含まれる物質「グアニン」のナノ粒子が薄い板状に何層も積み重なっており、層の厚さや間隔がナノメートル単位で変化することで、特定の波長の光だけが選択的に反射されます。
ゾウゲイロウミウシ(提供:PhotoAC)赤・緑・青のピクセルを組み合わせてさまざまな色を表現するスマートフォンの液晶画面と同じことが、ウミウシの体表でも起こっていたのです。
なぜ、どの角度から見ても色が変わらないのか?
構造色には弱点があります。CD裏面のように、見る角度によって色が変わってしまうことです。
しかし、ウミウシの色はどの角度からでも同じに見えます。これは、「ピクセル内部の層状の構造が、バラバラな方向を向いて並んでいるため」です。
どの角度から光が入っても、どこかの層が反射するため、安定した色の見え方になります。
ウミウシが生き残るための戦略
ウミウシがここまで複雑な構造を発達させたのは、なぜでしょうか。
ウミウシの多くは進化の過程で貝殻を失いました。その代わりに、捕食したカイメンや刺胞動物から毒を奪い取り、自らの武器にしています。鮮やかな色は「毒がある」という捕食者へのメッセージなのです。
動きの遅いウミウシにとって、この警告がどの方向からでも、すぐに、はっきりと伝わることは死活問題と言えるでしょう。
最大80%という高い反射率で、角度を問わず色を出せるピクセル構造は、長い進化の過程で磨かれてきた生存戦略だったのです。
ウミウシの派手な色
つまり、ウミウシの派手な色は、生き残るための戦略の産物というわけです。
あんなにも小さな生き物の体に、現代の光学技術にも通じる精巧なしくみが隠されていたとは驚きですよね。
またいつか海で出会ったら、じっくり観察してみたいとあらためて思ったのでした。
(サカナトライター:Polo the Rat)