「貝」と言われてまず想像するのは、アサリやハマグリといった一般的な二枚貝だと思います。
ですが、世界にはとてもキュートな“ハート型の殻”を持つ貝がいるのです。
今回は主に日本で見られるハート型の貝をいくつか紹介します。
きっとあなたも“キュン”とするに違いありません。
ハートの形をした殻をもつ貝
二枚貝のうち、貝を閉じて蝶番(ちょうつがい・2枚の貝殻が連結している部分)を上にして側面から見ると、可愛いハート型の形をしているものがいます。
ハートガイ(学名:Lunulicardia hemicardium)は、マルスダレガイ目ザルガイ科に属する二枚貝の一種です。
ハートガイの仲間(提供:PhotoAC)このザルガイ科には、そのほかにもリュウキュウアオイ(学名:Corculum cardissa)やインドアオイガイ(学名:Corculum impressum)、モクハチアオイ(学名:Lunulicardia retusa)、カブトアオイガイ(学名:Corculum kirai)などのハート型の殻を持つハートガイの仲間が含まれ、日本では奄美諸島以南の暖かい海に生息し、世界ではインド洋から太平洋に生息します。
モクハチアオイ(提供:PhotoAC)また、日本においては、水深20mまでの浅い海にはハートガイの仲間が生息。一方、深海にはニッポンオトヒメゴコロガイという貝が生息しています。
ハートガイの仲間は日本では絶滅危惧種に指定されている種が多いため、生きた貝を見つけても持ち帰らないようにしましょう。
生態もユニークな<ハートガイ>
ハートガイの仲間は、見る角度によって全く違う形状をしているのが特徴的です。
カブトアオイガイ(撮影:額田善之/撮影場所:渋川マリン水族館)光を透過する性質がある貝殻を持つ種類もいて、それらは貝の内部に褐虫藻が共生するそうです。
紫外線をカットする貝殻によって褐虫藻は好ましい生育環境を得られ、ハートガイはプランクトンの光合成産物を栄養として得られます。同じ場所に住む生き物たちがお互いの利益になる関係である「相利共生」の関係が成り立ちます。
ハートガイと同じく二枚貝であるシャコガイも、褐虫藻と相利共生関係にありますよ。
シャコガイ(提供:PhotoAC)なお、褐虫藻が光合成産物として宿主(今回の場合は、共生するハートガイ)にわたす栄養は、甘いブドウ糖です。
糖分は取引に使われやすいのか、これはアリとアブラムシの共生関係にも似ています。アブラムシはお尻から甘い蜜を分泌してアリにあげることで、捕食者であるテントウムシから守ってもらうという相利共生関係にあるのです。
ちなみに、これまで褐虫藻がハートガイにわたすのはグリセロールと考えられてきましたが、実はグルコースであることが確認されています。研究者たちの努力によって、海の生き物の秘密が解き明かされていくのは素晴らしいことですね。
古くから深海にすむ<ニッポンオトヒメゴコロガイ>
ニッポンオトヒメゴコロガイ(学名:Halicardia nipponensis)は、漢字では「日本乙姫心貝」と書きます。
ウミタケモドキ目オトヒメゴコロガイ科に分類される二枚貝で、化石としてもまれに産出する貝ですが、現在も三陸沖から相模湾、高知沖の400〜1,500mほどの深海に生息しています。
袋状の網を船でひき海底付近の魚介類を獲るトロール漁法で捕れることがあるそうです。
ニッポンオトヒメゴコロガイ(作画:額田善之)ニッポンオトヒメゴコロガイは、膨らみが大きい二枚貝で、3つの“でっぱり”があります。
横から見ると漢字の「心」のような形をしていて、真正面から見るとハート型をしているのが特徴。このような形状から、「日本乙姫心貝」という愛らしい名前がついたそう。
珍しい貝の化石は地質学的に有益
ニッポンオトヒメゴコロガイなどの深海の珍しい貝の化石は山で多く見つかることから、以前は海であった場所が隆起で山となったことを証明することが可能です。このように、珍しい貝の化石は地質学的に有益であり、富士山周辺の地質解析などにも役立っています。
乙姫さまのような煌びやかな美しさはありませんが、なんともロマンチックな名前です。このような、ネーミングセンスは日本人独特の奥ゆかしさなのかもしれませんね。
ハートガイはどこで見られる?
インドアオイガイ(撮影:額田善之/撮影場所:渋川マリン水族館)ハートガイは水族館などで飼育展示されることがほとんどありません。しかし、貝殻は博物館などで見ることができるので、気になる人は足を運んでみましょう。
筆者は、2026年4月下旬に訪れた岡山県玉野市にある渋川マリン水族館でみつけることができました。
ハートガイはその美しい姿のため、貝殻が手に入りやすい南国などではお土産に加工され販売されていることもあります。日本でも数百円から購入できるので、興味がある人は探してみてくださいね。
(サカナトライター:額田善之)