大型のヒゲクジラ類「ザトウクジラ」。本種は繁殖期に沿岸の浅海域を利用することが知られています。
東京都の小笠原諸島はザトウクジラにとって重要な海域の1つで、ザトウクジラは海洋生態系だけでなく、ホエールウォッチングの対象として経済的にも重要な存在です。
【画像】小笠原諸島・父島周辺で撮影されたザトウクジラの潮吹き(ブロウ)
一方、ザトウクジラを効果的に保全する上で生息適地の正確な把握が重要とされているものの、調査地に偏りがあるといった課題がありました。
そうした中で、一般社団法人小笠原ホエールウォッチング協会の辻井浩希主任研究員らの研究グループは、ザトウクジラの空間分布を科学的に明らかにすべく、生息適地予測を実施。生息適地を初めて可視化することに成功しました。
この研究成果は「Mammal Study」に掲載されています(論文タイトル:Predicting Habitat Suitability for Humpback Whales Megaptera novaeangliae Around the Chichijima Islands, Ogasawara Islands, Japan)。
小笠原諸島のザトウクジラ
世界中の海に生息する大型のヒゲクジラ類「ザトウクジラ」は、繁殖期に沿岸の浅海域を利用することが知られています。
東京都の小笠原諸島はザトウクジラの繁殖において重要な海域の1つ。毎年冬から春にかけて多くクジラが来遊します。
小笠原のザトウクジラ(提供:PhotoAC)ザトウクジラは小笠原諸島の海洋生態系における重要な構成であるとともに、ホエールウォッチングの対象でもあり、観光資源として高い経済的価値を有する種です。
そんなザトウクジラを効果的に保全するには、生息適地の把握が重要と考えられています。
しかし、本種の調査場所には偏りがあり、これまで、生息適地を可視化した研究はありませんでした。
ザトウクジラの生息適地を可視化
研究チームは、小笠原ホエールウォッチング協会が2013年、2015~2018年1月の合計5年間で蓄積した船舶による目視データを使用。
5年間の調査で確認された160群234頭の発見地点について、水深、海底傾斜、海岸線からの距離などの地形要因に加え、2つの種分布モデルを用いた生息適地予測が行われました。
水深と海底傾斜が重要
目視調査データの結果、父島列島周辺海域でザトウクジラが確認された地点は、多くが水深200メートルより浅いことが判明しています。
また、より深い海域で確認された地点では、大陸棚に近い場所に集中していたようです。
小笠原のザトウクジラ(提供:PhotoAC)種分布モデルの結果では、ザトウクジラの分布が水深や海底傾斜と関連し、特に水深の影響が大きいことが示されました。
2つの種分布モデルの結果からは、水深50~60メートルで、海底傾斜が0.5~0.8度といった場所で、生息適性が最大になることが予測されています。
父島では西側に浅い大陸棚が広がっていることから、東側と比較して西側に生息適地が多く集中いるとのことです。
小笠原諸島全体を対象にした生息適地マップ作成も
過去の研究でもザトウクジラの分布は、水深200メートル以浅の海域に集中すると言われていたものの、データが不足していたといいます。
今回の研究では、より深い海域や父島列島の東側を対象にすることで、父島周辺海域のザトウクジラの好む水深と海底傾斜を明らかになりました。
研究で作成された生息適地マップは小笠原海域のザトウクジラ生息地利用の理解を深めることに繋がるとされています。また、研究グループは今後、小笠原諸島全域に拡大した生息適地マップの作成に取り組むとのことです。
(サカナト編集部)