近年、大手スーパーの魚売り場で、サケやタラなどと共に「パンガシウス」という白身魚の切り身が売られています。
聞きなれない名前の魚で戸惑う消費者も少なくないかもしれませんが、ベトナムでは非常に重要な食用魚として知られ、現在は日本を含めて各地で需要のある魚です。
では、パンガシウスとは一体どのような魚なのでしょうか?
パンガシウスは東南アジアの大鯰?
パンガシウスとは、ナマズ目パンガシウス科に分類される魚の総称です。
パンガシウス科の魚は東南アジアを中心に広く分布し、淡水域のほか汽水域にも生息。パンガシウスと聞くと馴染みがありませんが、本種が属するパンガシウス科には怪魚として有名なメコンオオナマズ(Pongasianodon gigas)も含まれています。

パンガシウス科の魚(提供:PhotoAC)
世界中の魚類の情報を収集したサイト「FishBase」によると、2025年1月現在でパンガシウス科の魚は世界で30種程が知られており、中でもパンガシウス科の2種、Pangasianodon hypophthalmus(カイヤン)とPangasius bocourtiはベトナムにおいて重要な水産資源として知られています。
この2種の輸出量は2003年に13万トンに達し、現在、ベトナムのナマズ市場は急速に拡大。日本のナマズ輸入量も増加しており、2012年の統計計上以降で増加傾向にあり、国別輸入量でもベトナムが9割を占めます。
また、近年は同じくパンガシウス科のPangasius larnaudiiやPangasius conchophilusも重要な種として価値が上がっているようです。
パンガシウスが注目されている理由
パンガシウスが食用として注目されているのには、この魚の特性にあります。
環境の変化に強いこと、成長速度が速いこと、非常に大きく成長することから、低コストで生産可能なことに加え、クセのない味わいから、様々な料理に使うことができるのです。
日本が輸入しているナマズの大部分は<パンガシウス>
日本が輸入しているナマズ類はパンガシウスのほかにもシルルス属(ナマズ属)、クラリアス属(ヒレナマズ属)など複数いますが、大部分はパンガシウスであり、国別ではベトナム産がほとんどです。
日本での品名「パンガシウス」は学名のPangasiusをそのまま日本語読みしたものです。このほかにも「チャー」または「バサ」と表記される場合もあります。
なお、現在ではベトナムで生産されたパンガシウスは、日本を含めた世界各国に輸出され、市場規模を拡大しているようです。
多種多様な料理に使えるパンガシウスの魅力

パンガシウスのフィレ(提供:PhotoAC)
日本が輸入しているパンガシウスの多くは皮を剥いた「冷凍フィレ(三枚おろしの状態)」。フィレ以外の状態での入荷は比較的少ないです。
輸入されたフィレはそのままの状態で売られることもあれば、調理する手間を省くために洋風または和風に味付けされた状態も売られています。
大手スーパーのイオンでは、2017年の土用丑の日にASC認証(環境と社会への影響を最低限にした責任のある水産物の証明)の「パンガシウスの蒲焼き」を販売したことが話題となりました。
味付けされていないフィレはフライやムニエルに向いており、味付けされたものはそのまま焼くだけで美味しく食べることができます。
調理が手軽かつ料理の幅が広いのも、パンガシウスの魅力の一つでしょう。
日本でも<ナマズ食>が一般的になるのか?
パンガシウスを養殖しているベトナムをはじめとする東南アジアでは、ナマズ食はメジャーで日常的に食べられています。
実は、かつての日本でもナマズ食が発展していましたが、現代の日本ではナマズ食はあまり馴染みがありません。
その一方で、ナマズの輸入量は2017年にかけて上昇。パンガシウスを小売店で見かける機会も増えており、大手回転寿司チェーン店「くら寿司」では、ベトナム産のパンガシウスを使った寿司を提供しています。
パンガシウスは低コストで生産でき、様々な料理に向くことから水産資源の枯渇に対応できる種として今後も期待が高まっていくでしょう。
名前に馴染みがない魚は敬遠されがちですが、どういった魚なのかを理解した上で美味しく食べることも大切ですね。
(サカナト編集部)