2023年11月、沖縄で完全養殖されたシロギスが初めて出荷されたことが話題となりました。シロギスが養殖されていることに驚く人も多いのではないでしょうか。
今回は、「養殖シロギス」についてご紹介します。
古くから日本で愛されているシロギス
シロギスはスズキ目キス科に属する海水魚で、琉球列島を除く日本各地の浅い砂地に生息しています。
細い体と白く輝く鱗が特徴的であり、その美しい姿から「海の女王」とも称されます。現在、日本ではシロギスの他に4種類のキスが記録されていますが、一般的にキスといえば「シロギス」のことを指します。
シロギスは古くから食用魚としての人気が高く、日本各地で漁獲・消費されてきました。見た目の美しさもさることながら、身に旨味があり寿司や昆布〆はもちろんのこと、フライや塩焼きなどでも食されているほか、江戸前の天ぷらには欠かせない魚種でもあります。
また、釣りの対象魚としても人気が高く、陸っぱりからの投げ釣りをはじめシロギスを専門に狙った釣り船も出船している程です。釣り人からはお馴染みの魚であると同時に高級魚としても知られ、国産のものは市場で高値が付きます。
シロギスは年々漁獲が減少
日本の食文化に欠かせないシロギスですが、近年、漁獲量が著しく低下しています。シロギス漁のピークは産卵のために浅瀬へやってくる春~夏ですが、この時期の漁獲量は年々減少傾向にあります。
そのため、国内の漁獲量では需要を賄うことができなくなっており、現在ではタイ、ベトナム、オーストラリアからキス科の魚を冷凍で輸入している状況です。
沖縄で養殖がスタート
シロギスの供給が減少している中、養殖が始まったのは福山大学の研究がきっかけでした。
研究で使用していた瀬戸内海産のシロギスが自然下よりも倍速で成長したことに着目し、養殖技術に活かせないかというアイデアが生まれたのです。
2018年には、広島県福山市に拠点を置く株式会社クラハシと福山大学による「養殖シロギス」の共同研究が始まりました。シロギスを養殖する場に選ばれたのは、同社が沖縄県伊平屋島に所有する養殖施設でした。
シロギスは水温が15度以上ないと餌を食べず、水温が低い時期には成長が止まってしまうことが知られています。温暖な気候の沖縄では、水温が常に18度以上あります。この環境下のシロギスは1年中餌を食べて成長するため、本州で養殖するよりもさらに早い期間で出荷が可能になりました。
伊平屋島で育てられたシロギスは「びんごの姫」と名付けられ、量産・安定供給を目指してさらなる研究が進んでいきました。そして、2023年11月18日ついに「びんごの姫」は初出荷を迎えました。出荷された養殖シロギスは福山地方卸売市場に並び、7都道府県の市場で9000匹が取り引きされました。(中国放送 2023/11/22)。
天然のシロギスは11~2月はオフシーズンとされていますが、完全養殖が実現したことによって年間を通しての供給が可能になるといいます。
「シロギス」完全養殖の今後
当初、伊平屋島漁協から50トンの水槽3個を借りて始まったシロギス養殖も、現在では水槽が24個に増加し、さらなる量産を目指した事業拡大が行われています。2025年3月には10万匹のシロギスを出荷することを目標にしており、さらに将来的にはシロギスの生産量を50万匹に増やし、国内外への出荷を目指しています。
今回紹介したシロギスにかかわらず、完全養殖は人工種苗を使った養殖であることから、天然資源を減少させない養殖方法として注目されています。一方で、コスト減少などの課題がまだ多いとも言えます。
これから、国内で流通する魚のうち養殖魚の割合は増加していくと言われています。魚の消費量が多い日本では、天然資源への圧力を抑えた漁業がますます重要になるのではないでしょうか。
(サカナト編集部)