日本に生息するヒトデの代表格の一種といえるイトマキヒトデ。水族館のタッチプールで見たことがある人も多いかもしれません。
イトマキヒトデの仲間にはとても小さな種類もあり、種によっては幅長約2ミリと世界最小クラスのヒトデも。そして、この仲間は分裂して増えることもあるのです。
ファンシーな星形とは裏腹に面白い、イトマキヒトデの仲間の生態をご紹介します。
イトマキヒトデとは?
イトマキヒトデは日本沿岸で普通に見られる種類のヒトデで、幅長(盤の中心から腕の先の長さ)6センチ前後、大人の手のひらに乗るくらいのサイズです。腕が短めで「糸巻き」のような形から、この名前があります。
基本的に腕は5本ですが、4本だったり6本だったりと、個体差があります。色彩も個体によって違いがあり、多いのは青緑色に赤い斑点が入った模様ですが、全身オレンジ色や、やや白っぽい個体も存在します。
サザエ、クロアワビ、イソアワビなどの稚貝を食害することがあります(佐波 征機・入村 精一(2002)ヒトデガイドブック TBSブリタニカ)。
世界最小クラスの種類が存在する
このイトマキヒトデの仲間は、幅長数ミリから2センチ程度の、とても小さな種類もいくつかあり、特にチビイトマキヒトデとカワリイトマキヒトデは、小さな個体で幅長約2ミリと世界最小クラスのヒトデです(佐波 征機・入村 精一(2002)ヒトデガイドブック TBSブリタニカ)。
サンゴを飼育している水槽のガラス面をよく見ると、まるで金平糖のようなカワリイトマキヒトデがくっついていることがあります。
イトマキヒトデと他のイトマキヒトデの仲間は、同じイトマキヒトデ科ですが、属が異なります。
卵胎生、分裂…増え方もいろいろ
そんなカワリイトマキヒトデですが、増え方は卵ではなく分裂。無性生殖で増えます。そのため、きれいな五角形というよりは、足の何本かが短かったり、6~9本あったりと、それぞれ形もまちまちです。
カワリイトマキヒトデは、熱帯魚を飼育している方々にとっては、水槽内に点々と増殖してくる厄介者になることがあります。
イトマキヒトデの仲間には、他にも特筆すべき生殖方法を持つものがいくつか存在します。
幅長が大きくても1センチほどのコイトマキヒトデは、雌雄同体で卵胎生です。
普通、多くのヒトデは受精卵から外側を分裂した細胞がびっしりと取り囲んだ胞胚と呼ばれる状態になり、消化管が発達した囊胚を経て、ビピンナリア幼生、ブラキオラリア幼生、そして海底に着床後、稚ヒトデになる、という流れになります。
ですが、コイトマキヒトデは親ヒトデからいきなり稚ヒトデとして生まれ出るため、ビピンナリア幼生・ブラキオラリア幼生のような浮遊生活時期がありません。このような保育方法は、一部のクモヒトデでも見られます(藤田敏彦(2022)「ヒトデとクモヒトデ 謎の☆形動物」岩波書店 岩波科学ライブラリー)。
チビイトマキヒトデや一部のヌノメイトマキヒトデも雌雄同体ですが、チビイトマキヒトデは繁殖期になると、精巣か卵巣どちらかが発達し、集合して放卵・放精し、底質に卵を産み付けます。単独飼育下では自家受精をします(佐波 征機・入村 精一(2002)ヒトデガイドブック TBSブリタニカ)。
またチビイトマキヒトデはビピンナリア幼生の時期がなく、ブラキオラリア幼生の姿で孵化します。ブラキオラリア幼生は海中を漂うことをせず、長い腕で底質をはって過ごします(本川 達雄(編著)(2001)ヒトデ学-棘皮動物のミラクルワールド 東海大学出版部)。
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