サカナをもっと好きになる

キーワードから探す

知る

イワシではない?<トウゴロウイワシ科>のサカナたち 分類の特徴を解説

夏の防波堤はサビキ釣りをするファミリー釣り師でにぎわいます。このサビキ釣りでは「アジ」「サバ」「イワシ」といった魚を狙って釣ります。

そのなかでも「イワシ」は食べて美味しいので人気があります。そんなイワシに混ざって、トウゴロウイワシの仲間が釣れることがあります。

このトウゴロウイワシの仲間は名前に「イワシ」とついているものの、ニシン目のイワシの仲間ではありません。今回はトウゴロウイワシ科の魚についてご紹介します。

「イワシ」ではないトウゴロウイワシ科魚類

トウゴロウイワシの仲間は、トウゴロウ「イワシ」、ギンイソ「イワシ」など、標準和名に「イワシ」とついていますが、イワシの仲間ではありません。

一般的に「イワシ」といえば、ニシン目のマイワシやウルメイワシ、カタクチイワシといった魚を指します。トウゴロウイワシは棘鰭上目・トウゴロウイワシ目・トウゴロウイワシ科に分類される魚類で、ニシン目とは分類学的にかなり離れています。

上:トウゴロウイワシ科のギンイソイワシ、下:ニシン科のマイワシ(提供:椎名雅まさと)

トウゴロウイワシの腹鰭(上図の青い矢印)はスズキ目の魚と近い位置にあり、胸鰭(黄色の矢印)は高い位置にあります。ニシン目のイワシ類(マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシなど)の鰭の位置は「腹位」と呼ばれ、胸鰭が下方、腹鰭はかなり後方にあります。

また背鰭(赤紫色の矢印)もトウゴロウイワシ科の魚は2基あり、第1背鰭は棘条のみ、第2背鰭は1つの棘条と複数の軟条からなります。ニシン目の魚の背鰭は1基のみで、軟条のみからなります。

トウゴロウイワシ科魚類は見た目がボラ目のボラ科に似ており、実際に従来はトウゴロウイワシ目はボラ目などと近いとされていましたが、現在はボラ目とは縁遠いとされています。

トウゴロウイワシの仲間たち

トウゴロウイワシ目の魚は日本には4科が知られています。ナミノハナ科はナミノハナ属のみで外洋に面した磯の水面下を泳いでおり、日本からは3種ほどがいるとされますが、ナミノハナをのぞいて標準和名はまだついていません。

アテリオン科は1属3種からなり、日本からはムギイワシのみが知られています。頭部や吻部に小さな突起が多数あるのが特徴です。

ムギイワシ(アテリオン科)の頭部(撮影:椎名まさと)

アテリノプス科は英語で「New World silverside」つまり「新世界のトウゴロウイワシ科」という意味で、その名の通り南北アメリカ大陸に生息するものです。もともとは日本にはいませんでしたが、アルゼンチンから神奈川県の丹沢湖や相模湖、津久井湖、霞ヶ浦、北浦などに導入されているペヘレイを含みます。また、カリフォルニアの砂浜で産卵することで有名なグルニオンもこの科の魚です。

このほか観賞魚としてよく知られるレインボーフィッシュもこのトウゴロウイワシ目のメラノタエニア科の仲間の総称で、トウゴロウイワシ目はかなりの大所帯といえそうです。

トウゴロウイワシ属とギンイソイワシ属

日本に生息するトウゴロウイワシ科魚類3属のうち、日本の広い範囲でよく釣れているのはトウゴロウイワシ属のトウゴロウイワシと、ギンイソイワシ属のギンイソイワシの2種です。

ヤクシマイワシ属は紀伊半島以南に見られるものの分布の中心は琉球列島以南です。

三重県で釣ったギンイソイワシ(撮影:椎名まさと)

トウゴロウイワシ属 Doboatherina は2019年に新属記載されるまで、この属の魚はギンイソイワシ属 Hypoatherina の中に含められてきました。

なお、トウゴロウイワシ属の属学名 Doboatherina の「Dobo」とは、三重県地域におけるトウゴロウイワシの呼び名「どぼ」にちなみ、その意味は「新釈 魚名考」では「どぼ」とは「鈍物・愚鈍な魚」の意味としています。新属記載者の笹木大地・木村清志両氏は当時三重大学におられた方です。

三重県尾鷲の定置網にかかったトウゴロウイワシ。美味。(撮影:椎名まさと)

日本産のトウゴロウイワシ科魚類で「Hypoatheina」とされた魚のうち、トウゴロウイワシ属にはトウゴロウイワシリュウキュウイソイワシネッタイイソイワシの3種が含まれています。

このうちネッタイイソイワシはヤクシマイワシ属に含まれていましたが、ヤクシマイワシ属によく似た外見をしているものの、下顎歯列後端の突起の形状などはヤクシマイワシ属と異なっていました。また日本産のネッタイイソイワシの学名は Atherinomorus duodecimalis(=Doboatherina duodecimalis)とされましたが、2019年に新種記載され Doboatherina yoshinoi となっています。

一方日本産のギンイソイワシ属にはオオスジイソイワシトガリイソイワシオキナワトウゴロウギンイソイワシミナミギンイソイワシ、そしてギンイソイワシが含まれています。

オキナワトウゴロウにはかつて”Hypoatherina” woodwardi という学名が与えられていましたが、この”H”.woodwardi はオキナワトウゴロウとは明らかに別モノであり、オキナワトウゴロウは2012年に新種記載されました。なおこの”H”.woodwardi は今日ではトウゴロウイワシ属とされています。これがリュウキュウイソイワシです。

1

2
  • この記事の執筆者
  • 執筆者の新着記事
椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

  1. 関東地方で見られる<オヤビッチャ属>の幼魚たち 可愛いけど飼育には向かない

  2. 新種のエイ<ヤッコエイ>とは 伊豆諸島や小笠原諸島で釣れるお馴染みの魚?

  3. 夏から秋の夜釣りで出会える可愛い魚<ハタンポ>たち 小さいけど意外と美味しい?

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

関連記事

PAGE TOP