2022年に公開された「ChatGPT」などの生成AIの台頭は世界を一変させると話題になりました。
AIに仕事を奪われるといった不安の声がある反面、AIは労働者人口の減少が続く日本において、日本人を取り巻く労働環境を改善するための鍵になり得ると期待の声もあります。
そんなAIの活用は漁業でも既に始まっています。今回はAIを活用した漁業を紹介します。
多くの問題を抱える日本の漁業
日本では労働者人口の減少や少子高齢化が社会問題となっていますが、これは一次産業で特に顕著です。
漁業では、慢性的な人手不足(担い手不足)と漁業者の高齢化が課題となっています。政府は漁業就業者を増やそうと様々な対策を講じてきましたが、若年層の新規参入はあるものの、漁業就業者全体の数は減少傾向にあります。
さらに、近年では漁獲量の減少や漁獲される魚の変化、燃料費の高騰もあり、漁業関係者はますます厳しい状況に置かれています。イワシやアジなどこれまで<庶民的>とされてきた魚も、近い将来は高級魚となってしまうとも言われています。
不漁対策として、養殖漁業に取り組む地域もあります。現在では、マダイやブリを中心に日本各地で様々な魚が養殖されています。
養殖では餌の高騰が問題
養殖漁業は一見安定した漁業のように思われがちですが、不安定な一面も多くあります。
養殖業で一番お金のかかることは何か。
実は一番お金がかかるのは餌代なのです。魚種にもよりますが、養殖のコストの6〜7割を餌代が占めていることから、餌代のコストが経営を左右します。
餌の主原料の多くはペルー、チリなどの外国産カタクチイワシ科を使用した魚紛です。輸入カタクチイワシの価格は変動が大きく、近年では社会情勢の影響もあり、餌代が高騰しています。
このような背景から養殖漁業では無駄な給餌を減らすことが求められています。
また、通常の漁業のように養殖漁業でも過酷な労働が課題となっています。毎日、生け簀へ行き給餌を行う手間やそれに伴う燃料費の削減も課題となっています。
くら寿司が提供した<AI桜鯛>
そうした中、新たな試みとして話題になった<魚>がいます。
回転寿司チェーン店の「くら寿司」は2021年11月、AIとIotの活用で養殖漁業の人手不足や過酷な労働環境の改善を目指す「KURAおさかなファーム株式会社」を設立しました。実際に、水産養殖×テクノロジーに取り組むスタートアップ企業「ウミトロン社」のAI搭載スマート給餌器「ウミトロンセル」を使用したマダイ養殖が愛媛県で始まっています。
そのマダイですが、2022年3月には<AI桜鯛>として、期間限定で「くら寿司」で販売されました(1貫税込110円)。一部の店舗では期間中に完売してしまうなど好評だったようです。
AI搭載スマート給餌器「ウミトロンセル」
「ウミトロンセル」の中と底にはカメラが付いており、魚の様子を遠くにいながらスマートフォンでリアルタイムに見ることができます。また、遠隔操作での給餌が可能であるほか、AIが魚の食欲を判断し給餌する量を最適化してくれる機能もあります。これらのシステムにより、餌の無駄や沖合に出るための燃料、餌やりの労働時間を大幅に削減することに成功しました。
AI給餌器の活用は、マダイだけではなくブリの養殖でも成功しています。
養殖ブリの測定は従来人間が手作業で行っていましたが、この作業は重労働であることに加えて、魚を傷つけてしまうリスクがあることが課題でした。AIが搭載されたカメラによってブリの泳いでいる姿から尾叉長(びさちょう:上顎の先端から尾鰭が二叉する中央部の凹みの外縁までの長さ)を測ることが可能になりました。これにより、魚を傷つけずに計測が可能になったほか、労働負担も減少しました。
スマート水産業に期待
このようにAIを活用した水産業は「スマート水産業」と呼ばれ、現在期待が高まっています。
漁業が抱える担い手不足や労働環境などの課題は、最終的には小売店におけるサカナの価格や質、品揃えといった形で消費者である私たちにも関わってきます。
「スマート水産業」をはじめとした漁業の課題解決について、日常からアンテナを張ってみることも大事かもしれません。
(サカナト編集部)