静岡県静岡市葵区の麻機遊水地で1月19日、伝統漁法「柴揚げ漁」が行われました。
この漁は、冬になると巣ごもりする魚の習性を用いたもので、かつての浅畑沼(静岡市街の北東に位置する麻機地区にあった沼)で行われていた伝統漁法です。
寒い間巣ごもりしている魚を捕獲する
柴揚げ漁とは、かつて浅畑沼で行われていた伝統漁法です。
水温が下がる前の9月下旬から10月初旬、木の枝葉(柴)を沼のなかに沈めておきます。寒くなると魚たちは沈めた柴で過ごし始めます。
そして、大寒の頃になると、沈めた柴のまわりをすだれで囲み、沈めた柴を取り除いてからタモで魚をすくいます。
昔は浅畑沼の周辺に席をもうけ、家族や親戚一同で捕れた魚を料理したといいます。
浅畑沼があった麻機遊水地で今も受け継がれる
柴揚げ漁が行われてきた浅畑沼は広大な湿地でした。
周辺にある巴川や長尾川の水源地として豊かな環境を育んできましたが、干拓されてしまいました。現在は治水対策事業により、麻機遊水地となっています。
この麻機遊水池で、麻機遊水地柴揚げ漁保存会により柴揚げ漁が受け継がれています。
9月から10月頃に沼の底を1メートル50センチほどの深さに掘り下げ、クリやコナラ、シイといった広葉樹の枝を葉が付いたまま掘った穴に入れ、それを水面まで積み重ねます。
年が明け寒くなれば、すみかをすだれで囲んで魚の逃げ道をふさいだあと、柴を取り除き、タモ網でそこをすくいます。毎年1月の第3日曜日に開催されているそうです。
柴揚げ漁で獲れるのはモツゴやギンブナ
柴揚げ漁では淡水に生息する小魚を捕獲することが可能です。代表的な2種を紹介します。
佃煮や甘露煮で食べる<モツゴ>
モツゴはコイ目コイ科モツゴ属の淡水魚です。日本では、関東地方以西の本州、四国、九州に分布しています。日本以外には台湾、朝鮮半島、中国大陸東部など東アジアに分布する魚です。
湖沼や河川、用水路やため池、水田など幅広い淡水域に生息しています。水質汚濁にも強く、都市部周辺にも生息しています。
全長は8センチ前後と小さく、体色は銀白色で、側線に沿った黒い縦条が入っているのが特徴。佃煮や甘露煮として食べられることが多いです。
かつては重要な食用淡水魚だった<ギンブナ>
ギンブナはコイ目コイ科コイ亜科の淡水魚です。日本各地に分布しており、モロコと同じく東アジアでもみることができます。
全長は15センチ程度と、モツゴよりは存在感がある魚です。
湖沼や河川の下流といった、水の流れが穏やかな場所に生息しています。
現在では食用にされることが減りましたが、かつては日本各地で重要な食用淡水魚。塩焼き、甘露煮、あらいなどで食することができます。
全国各地に分布することから、各地でさまざまな料理で食べられていました。
伝統漁は知識と経験の結晶
古くから水産物に親しんできた日本では、狙った魚を目指して捕獲するための伝統漁が全国各地に伝わっています。
柴揚げ漁はそのうちのひとつで、柴を入れ、あげる時期や魚の習性など、さまざまな知恵が詰まった漁法だといえます。
最新技術やAIを使った最新の漁が注目される傾向にある今日この頃ですが、知識と経験が培った伝統漁を絶やさずに未来へ繋いでいくのもまた大切なのではないでしょうか。
(サカナト編集部)