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「沖縄のタイ」といえば<キビレアカレンコ> 今年初めての魚はキミに決めた!

2025年が始まってもう1か月が過ぎました。

筆者が今年初めて購入した魚は、琉球列島など亜熱帯の海に生息するタイ科のキビレアカレンコ

そんなキビレアカレンコを観察したり食したりして楽しむことができたので、レポートしていきます。

キビレアカレンコとは

キビレアカレンコ(撮影:椎名まさと)

キビレアカレンコDentex abei Iwatsuki, Akazaki and Taniguchi,2007はタイ科・キダイ属の魚です。

日本国内における分布域は奄美諸島や沖縄県、沖縄トラフ、小笠原諸島で、海外では台湾やフィリピンのルソン島からの記録があります。

標準和名の意味は「黄色い鰭の赤いれんこだい」という意味で、「れんこだい」というのはキダイの別名です。

なお、キダイのことを古くは「べにこだい」と呼んでいたらしく、それが「べんこだい」と呼ばれるようになり、やがて「れんこだい」と呼ばれるようになったとされています。

沖縄では「ふかやーまじく」

沖縄では「ふかやーまじく」と呼ばれています。「ふかやー」とは「深い海」という意味であり、「深い海のタイ」という意味です。

「まじく」はタイの意味なのか、沖縄で見られるもう一種の赤いタイ、タイワンダイのことを「よなばるまじく」と呼称するようです。

従来からその存在は知られており、1997年の山と溪谷社『山溪カラー名鑑 日本の海水魚』などにもキビレアカレンコは掲載されていました。

しかし、その学名欄に掲載されていたのはDentex sp. つまり「キダイ属の一種」とされ、標準和名があるものの、学名は与えられていませんでした。

2007年、宮崎大学の岩槻幸雄教授らにより、ようやく新種記載されました。

学名はDentex abeiで、日本の魚類学に大きな貢献をした故・阿部宗明博士への献名です。

沖縄に生息するタイ科

石垣島でせりに出されるキビレアカレンコ(撮影:椎名まさと)

沖縄県には日本の本州から九州に分布するチダイやキダイなどはみられず、マダイも八重山諸島魚釣島近海から少々漁獲される程度とされています。

そのため、このキビレアカレンコタイワンダイが沖縄県に生息する「赤いタイ科魚類」のほとんどを占めます。

特に、キビレアカレンコは沖縄では普通種で、書籍『原色  沖縄の魚』(1997、琉球水産協会)の中では「沖縄の市場で見る大部分はこのタイとみなしてよい」としています。

なお、琉球列島(奄美諸島を含む)全体ではこのほかホシレンコという魚もいますが、このホシレンコは奄美諸島近海にのみ生息するもので、沖縄県にはいません。

一方、クロダイの仲間はミナミクロダイ、オキナワキチヌ、ナンヨウチヌ、イワツキクロダイ、ヘダイの5種が知られます。

ほとんどクロダイ・キチヌ・ヘダイの3種しか見られない本州~九州よりも種数が多いといえそうです。

ただし、クロダイとキチヌは琉球列島では見られません。

キビレアカレンコとキダイは色彩・斑紋で見分ける

和歌山県産キダイ(撮影:椎名まさと)

キビレアカレンコの含まれるキダイ属は、日本から2種が知られています。

キビレアカレンコと、属の標準和名にもなっているキダイDentex hypselosomus Bleeker, 1854です。

キダイは青森県、東北地方から九州までの日本海・太平洋に生息し、水深100~200メートルのやや深い海底に生息しますが、先述のように琉球列島には産しません。

キダイの背中には黄色斑があり、背鰭は赤みを帯びている。土佐湾(撮影:椎名まさと)

キビレアカレンコとキダイは、色彩・斑紋によって見分けるのがよいでしょう。

キダイでは背中に大きな黄色斑がありますが(上記写真の青い矢印)、キビレアカレンコにはそれは見られません。

またキダイの背鰭は赤みを帯び(同黄色い矢印)、キビレアカレンコでは背鰭が黄色いことで見分けることができます。

キビレアカレンコ(撮影:椎名まさと)

キビレアカレンコは、カメラの角度や光の当て方により色彩が大きく変わります。

まな板の上に寝かせて撮った上の写真では、のっぺりとしたような模様なのですが……。

上の写真と同一個体(撮影:椎名まさと)

魚を持ち上げてあげると、体側に細い青白い縦線が鮮やかに出現し、美しくなります(キダイも似た模様が出る)。

沖縄県の沖縄美ら海水族館では本種を飼育していたことがあるらしく、同水族館のWebサイトに掲載されている飼育個体においても、この青白い縦線は明瞭に出ており、非常に美しいものでした。

なお、同水族館による解説では「多く漁獲されるが、飼育は難しい」とされています。

水深100メートルを超える海から漁獲されるものは、船の上に揚げられる過程で内臓にダメージを負っている個体も多く、飼育は難しいことが多いのです。

キビレアカレンコを食べる

キビレアカレンコの刺身。背鰭は明らかに黄色(撮影:椎名まさと)

筆者は過去に2回、キビレアカレンコを入手していました。

しかし、過去2回はいずれも標本としてしまっていたので、3回目となる今回が初めて食べるということになります。

食べ方は刺身や塩焼き、煮つけなどで、本州~九州に生息するキダイと同じように食べることができます。

今回は全長30センチを超える大きいものが2匹もやってきたので、刺身にしていただきました。

その味は、マダイよりも身が甘くてかなり美味で驚かされました。

今年は1月から美味しい魚を購入し、食することができました。いい1年のスタートになりそうな予感です。

※今回のキビレアカレンコは(マルホウ水産・魚喰民族)より購入したものです。ありがとうございました。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

榮川省造(1982)、新釈 魚名考、青銅企画出版

具志堅宗弘(1972)、原色 沖縄の魚、琉球水産協会

Yukio Iwatsuki, M. Akazaki and N. Taniguchi. 2007. Review of the Species of the Genus Dentex (Perciformes: Sparidae) in the Western Pacific Defined as the D. hypselosomus complex with the Description of a New Species, Dentex abei and a Redescription of Evynnis tumifrons. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl. 1, pp. 29?49.

中坊徹次(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会

岡村収・尼岡邦夫(1997)、日本の海水魚. 山と溪谷社

下瀬環(2021)、沖縄さかな図鑑、沖縄タイムス社

沖縄美ら海水族館 キビレアカレンコのWebページ

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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