日本の固有種であるオオサンショウウオ。これによく似た、チュウゴクオオサンショウウオとの交雑個体を特定外来生物に指定する意見がまとまりました。
チュウゴクオオサンショウウオとは? なぜ特定外来生物に? この問題についてわかりやすく理解できるようまとめてみました。
日本の固有種、オオサンショウウオとは
オオサンショウウオは、有尾目サンショウウオ亜目サンショウウオ科サンショウウオ属の両生類で、岐阜県以西の本州や四国、九州の一部にすんでいる日本固有種です。最大で全長50センチから100センチほど、大きな個体では最大150センチにまで育つ大きな両生類で、世界最大の両生類とも言われています。
完全水生で、主に標高400メートルから600メートルにある河川に生息しています。同種は1951年に国の天然記念物に、1952年に特別天然記念物に指定されました。オオサンショウウオを飼育している水族館では、おだやかな環境でゆったりと暮らすオオサンショウウオたちが観察できます。見ていると心が落ち着いていくような、愛くるしいフォルムで人気を誇っています。
問題となっているのはチュウゴクオオサンショウウオ
現在、そんなオオサンショウウオの生存がある種によって脅かされています。それが、中国大陸が原産のチュウゴクオオサンショウウオです。チュウゴクオオサンショウウオは原産国でも希少種で、日本では特に京都市の鴨川水系などに多く生息しています。オオサンショウウオによく似た外見で、いぼや模様の差異はあれども、外見で区別することはほとんど不可能で、DNA調査をすることで区別されています。
チュウゴクオオサンショウウオの生息が広まることで最も問題視されているのが交雑です。見た目はほとんど同じですが、遺伝子レベルで別の種が交わることによって、在来種であるオオサンショウウオの生息数が減少、絶滅の恐れがあるのです。京都市の文化財保護課が2011年に行った調査(平成23年度特別天然記念物オオサンショウウオ緊急調査 調査実績-京都市情報館)では、既に多くの割合を交雑個体が占めています。鴨川水系では7割、桂川水系では3.5割、全体では6割の交雑種が確認され、さらにこの調査では鴨川水系以外ではじめて交雑種が確認されたそう。
また、平成24年の調査では9割以上の交雑種が確認されており、在来種は人為管理下に置いて管理する必要があること、増やすにはかなりの労力を費やすことなどが指摘されています(「第3回外来種チュウゴクオオサンショウウオ対策検討会」議事録要旨-京都市情報館)。
さらに2022年、広島県内では計27頭の交雑個体が見つかりました(交雑多数で在来種消滅懸念、広島 オオサンショウウオ-高知新聞)。交雑個体は同年5月に初めて発見されたそうです。少なくとも交雑個体は三重や岡山など中部・近畿・中国地方の2府7県で確認されており、オオサンショウウオとの区別の難しさや交雑個体のみの駆除が実質的に不可能なこと、また外来種や交雑個体は在来種よりも攻撃的で、在来種を駆逐してしまう可能性があることなどから大きな問題となっているのです。
交雑個体も「特定外来生物」指定が必要だとする意見がまとまる
2024年1月、環境省の専門家グループは、チュウゴクオオサンショウウオとオオサンショウウオの交雑個体について、特定外来生物に指定することが必要だとする意見をまとめました(オオサンショウウオ 外来種や固有種との交雑個体「特定外来生物」に-毎日新聞)。特定外来生物に指定されると、野外に放出することや見つけた個体を許可なく別の環境に移動することが禁止されます。
これまで、DNA検査をしなければ在来種や外来種、交雑個体の区別ができませんでしたが、京都大などの研究グループが昨年、体の色や頭部のイボの形など、外見での区別が可能だとする研究成果を発表したことが指定に向けた判断の根拠のひとつになっています。
天然記念物と、特定外来生物がよく似た見た目というのはとても不思議な事態です。遺伝子レベルでの外来種問題を一般の人々に理解してもらい、広めていくのはとても大切な取り組みとなります。
今後、オオサンショウウオの生息地がどのように変化していくのか、目が離せません。
(サカナト編集部)