貝類は非常に多様性の高いグループであり、ハマグリやアサリのように一般的な種から生物に寄生する変わった種まで存在します。
ハナゴウナ科に属する巻貝は棘皮動物に寄生することが知られており、中でもセトモノガイ属はナマコ類で多く見られるそうです。一方、セトモノガイ属は未記載種を含め膨大な種数があることに加え、形態的な差異が乏しいことから研究泣かせのグループともいわれています。
そのような中、京都大学フィールド科学教育研究センター、大阪市立大学、目黒寄生虫館の研究グループは、ニセクロナマコの体内外から4種のセトモノガイ属を発見。4種のうち2種は未同定であり、1種が本邦初記録であることを明らかにしました。
この研究成果は『Zoological Science』に掲載されています(論文タイトル:Co-Occurrence of Gastropods of the Genus Melanella (Mollusca: Eulimidae) Parasitizing the Black Sea Cucumber Holothuria leucospilota in Central Japan: Implications for Their Geographic Distribution and Parasitic Ecology)。
棘皮動物に寄生する巻貝
ハナゴウナ科に属する巻貝は、ウニやヒトデ、ナマコなどの棘皮動物に寄生することが知られています。
中でもセトモノガイ属 Melanella はナマコ類の体表によく見られる貝類です。このグループは吻をナマコの体壁に突き刺し体液を吸って生活しており、いつくかの種ではナマコの体内に寄生します。

近年、ハナゴウナ科とナマコの共生関係についての研究が進んでおり、南西諸島の浅海で多産するクロナマコでは体表にホソセトモノガイ近似種をはじめとした本属の巻貝が数種類とカギモチクリムシ Peasistilifer nitidula が寄生することが知られてます。また、クロナマコの体内にはMegadenus atrae と呼ばれる巻貝が寄生しているようです。
解剖すると大惨事?
同じく浅海に生息するニセクロナマコにも寄生する、セトモノガイ属のクロナマコヤドリニナ Melanella kuronamako が知られています。
一方、他の貝類についてはこれまであまり調査されていません。というのも、ニセクロナマコは強い刺激を受けると、キュビエ管と呼ばれる白くてねばねばしたひも状の器官を肛門から出し、防御に使用するのです。
解剖時、このキュビエ管が手やハサミに絡まり大変なことになるため、多くの研究者はニセクロナマコを開いてまで寄生性の貝類を探してこなかったと推察されています。

しかし、2022年に京都大学瀬戸臨海実験所で開催された実習でナマコの体内に寄生する生物の調査を行っていたところ、解剖したニセクロナマコ7個体のうち2個体の体内からセトモノガイ属の貝類が発見されました。
今回の研究では、ニセクロナマコの体内から採集されたセトモノガイ属を同定するため、分子系統解析が行われています。
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