多種多様な生物が暮らす海洋では、多彩な生存戦略が繰り広げられています。
「擬態」は多くの生物が獲得している戦略の1つであり、アオリイカの1種である「シロイカ」は“擬態のプロフェッショナル”です。沖縄科学技術大学大学院の研究チームの先行研究では、本種が泳ぎながら海底の色に応じて体色を変化させていることが分かっています。
こうした知見がある中で、同研究チームはシロイカにおける擬態戦略の全容を解明。本種が多様な擬態行動を用いていることが明らかになりました。
この研究成果は「Scientific Reports」に掲載されています(論文タイトル:Situational motionless camouflage of a loliginid squid)。
擬態する生物
海にはクジラや魚、タコなど様々な生物が生息しており、生物種の数だけ生存戦略が存在します。
中でも擬態は多くの生物が獲得している戦略の1つといえるでしょう。
擬態するピグミーシーホース(提供:PhotoAC)擬態では岩や海藻などの周囲の環境はもちろん、他の生物に姿を似せることもあります。
沖縄で「シロイカ」と呼ばれているアオリイカの1種(Sepioteuthis lessoniana sp. 2)は、この手のプロフェッショナルと言っても過言ではありません。
大型魚類や他の頭足類など、様々な脅威に遭遇する可能性があるシロイカは、本種は自らの身を守るために多彩な生存戦略を備えています。中でも、体色を変化させる擬態は代表的な戦略の1つです。
シロイカの擬態パターン
シロイカの天敵は優れた視覚を持つ一方、色の識別ができず「モノクロの世界」を見ています。そのため、非対称な環境から対称性のパターンを感知する能力を進化させてきました。
これに対し、シロイカは周囲の環境に体を溶け込ませることで、身を守っているという訳です。
沖縄科学技術大学大学院の研究チームが過去に行った研究では、シロイカが泳ぎながら海底の色に応じて体の色を変化させていることが明らかになっています。
アオイリカ(提供:PhotoAC)今回、同研究チームはシロイカが用いる擬態戦略について、より詳しく理解するために調査・研究を実施しました。
この研究によりシロイカの擬態行動について、いくつかのパターンが確認されています。1つは、シロイカが対称性を最小限に抑えるための行動です。具体的には腕を横に投げ出したり、前方へ垂れ下げたりすることで、捕食者を欺きます。
アオリイカ(提供:PhotoAC)もう1つは、群れを使った擬態です。シロイカが群れを作ることで身を守っていることが知られていましたが、複数のシロイカが重なったり色彩を融合させたりすることで、擬態を協調させていることが明らかになったのです。
特殊な色彩パターン「ディスラプティブ迷彩」
さらに、本研究では「ディスラプティブ迷彩」と呼ばれる特殊な色彩パターンが報告されました。研究チームはこの色彩パターンについて、かつて軍艦に施された「ダズル迷彩」に例えています。
アオリイカ(提供:PhotoAC)このディスラプティブ迷彩ではイカの体を完全に隠すのではなく、捕食者に対して自身の形状や大きさ、位置を混乱させる効果があるようです。これにより、脅威からの逃亡を容易にしていると考えられています。
これらの観察結果からシロイカは、体の形・体色・仲間との協調など、様々な視覚戦略を組み合わせていることで、擬態していることが明らかになったのです。
1
2