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可愛いだけではない<ラッコ> 実は「生態系上の重要な生物」って知ってた?

ぷかぷかと水面に浮かぶラッコ。まるでぬいぐるみのようにかわいい姿には心が和みます。

そんなラッコたちですが、ただかわいいだけではないのです。

ラッコの生態や能力、環境への貢献を知れば、意外な一面に驚くかもしれません。

哺乳類最強の「生きたダウンジャケット」

ラッコは、北海道周辺からオホーツク海、カムチャツカ半島、アリューシャン列島、そして北アメリカの沿岸の寒い地域に分布しています。

北の海を生きる多くの海生哺乳類は、分厚い脂肪層を身に着けることで体温を保っています。例えば、ホッキョククジラは43~50センチ以上ある脂肪層を持っているのです。

ところが、ラッコはほとんど皮下脂肪を持っていません。彼らは凍えるような海でどうやって生きているのでしょうか?

寝そべるラッコ(提供:PhotoAC)

その秘密は、世界一高密度な毛皮にあります。ラッコの毛は1平方センチあたり12~14万本にも達し、人間の頭髪とは比べ物にならないほどの密度を持つとされています。

哺乳類の中で最も密度が高いといわれるこの毛皮は、空気の層を皮膚の周りに閉じ込めることで断熱効果を発揮しているのです。

この高密度の毛が作り出す空気の層が、冷たい海の中でも体温を保つ断熱材の役割を果たしています。まさに“生きたダウンジャケット”ですね。

ただし、この毛皮の断熱機能には弱点もあります。

毛皮が油で濡れてしまうと、その空気の層が失われ、断熱性を保てず低体温症で死んでしまうのです。そのため、ラッコは1日の多くの時間をグルーミング(毛づくろい)に費やし、ダウンジャケットの性能を維持しています。

生きるために欠かせない「高カロリーな食事」

とはいえ、毛皮だけで体温を維持するのは簡単ではありません。

陸上の同じ大きさの哺乳類に比べて、ラッコは2~3倍の代謝率で体内に熱を生み出し続けています。この莫大なエネルギーを維持するため、彼らはなんと1日に自分の体重の約25パーセントものエサを食べなければなりません。

体重が25キロのラッコなら、約6キロ以上も食べる計算です。人間で例えると、体重60キロの成人男性なら約15キロ(ステーキ200グラムを約75枚)を食べる計算となります。

お食事中のラッコ(提供:PhotoAC)

ラッコはウニやアワビ、カニといった高カロリーな好物を求めて、1日の大半を狩りに費やします。

水族館でひっきりなしに食べているように見えるのは、決して食いしん坊だからというだけではなく、冷たい海で生きるために必要な食欲なのです。

あのかわいい姿の裏側には、過酷な環境で生き抜くための必死の努力があると考えると、ラッコへの見方が少し変わってきませんか?

かわいい仕草と毛づくろい

ラッコの写真やイラストでよく見かける、両手を顔に当てるポーズ。

「わあ、困っているのかな?」「照れてるみたい!」と、そのかわいさに多くの人が心を奪われます。

2頭のラッコの例のポーズ(提供:PhotoAC)

しかし、この仕草にもちゃんとした理由があります。

ラッコの体はびっしりと毛で覆われていますが、唯一、手のひらや足の裏、鼻先などには毛が生えていません。特に手のひらは、エサを捕まえたり道具を使ったりするために感覚が鋭敏で、冷たい海水にさらされるとすぐに体温が奪われてしまいます。

そこでラッコは、毛が生えていて温かい顔や目の周りに冷えた手を押し当てて、暖を取っているのです。

あのかわいいポーズは、実は「手がかじかんで寒いよ」というサインであり、体温調整の方法だったのです。

また、頻繁に行うグルーミングも、先述した通り防水機能を維持するための重要な作業のひとつ。かわいい仕草の一つひとつに、生き抜くための知恵が詰まっているのですね。

道具を使う知能の高さ

ラッコは、自然界でも道具を使いこなす数少ない動物として知られています。

彼らは硬い貝やウニの殻を割る際に、石をハンマーや作業台として利用します。石を胸の上に置いて貝を叩きつけたり、岩に張り付いたアワビのような獲物を剥がすために使ったりするのです。

さらに、ラッコの脇の下には皮膚のたるみでできた「ポケット」があります。このポケットには、潜水中に捕まえた貝やウニ、さらにお気に入りの石を入れておくこともあるようです。

石を器用に使いこなす技術からは、ラッコの知能の高さがうかがえますね。

仲間との絆「ラッコラフト」

ラッコは群れを作って生活する、社会性の高い動物です。食事やグルーミングを終えて休息する時、彼らは水面にプカプカと浮かんで眠ります。

ラッコの親子仲良く睡眠(提供:PhotoAC)

そして、ここでもかわいい行動が見られます。それがラッコラフトと呼ばれる行動です。

海流に流されて群れから離れてしまわないように、仲間同士で手をつないで眠るのです。

野生のラッコの場合、海藻(ジャイアントケルプなど)を体に巻き付けて眠ることが多いようですが、水族館のように海藻がない環境では手をつなぐ姿が観察されています。

手をつないでいるラッコたちの姿がいかだ(ラフト)に似ていることから、ラッコラフトと呼ばれているこの光景。迷子にならないよう手をつなぐ親子のようで、とてもかわいらしいです。

ラッコの役割は海の守り人

ラッコは生態系においても重要な生きものです。

生態系のバランスを保つ上で欠かせないキーストーン種であり、その重要性から海の守り人とも呼ばれています。

そう呼ばれるようになったきっかけは、19世紀に毛皮目的の乱獲が原因でラッコが激減したことにあります。

ラッコが激減したことで天敵を失ったウニが爆発的に増え、ジャイアントケルプの森(海藻の森)を食い尽くすという危機が起きたのです。

ウニに食い尽くされた海藻の森は、多くの魚や甲殻類などが卵を産み、稚魚たちが隠れ家として利用する大切な場所。さらに海藻は二酸化炭素を吸収し、酸素を作り出すなど地球温暖化の抑制にも貢献しています。

ラッコがウニを食べることで、その数が適切に保たれ海藻の森は豊かに茂り続けていたというくらい、大量のラッコが短期間に狩猟されてしまったということなのでしょう。

この経験から、ラッコが環境において大切な存在であることが改めて考えられるようになったのです。

ラッコに詳しくなって、もっと好きになろう

ラッコには、かわいい見た目だけでは語り尽くせない、驚くべき生態や能力、そして大切な役割があることを知っていただけたでしょうか。

かつては多くの水族館で会えたラッコですが、輸入規制や繁殖の難しさから、現在、日本国内で会えるのは鳥羽水族館(三重県)のわずか2頭のみとなってしまいました。ワシントン条約の規制により、今後輸入することも叶わないので、飼育下のラッコを目撃できる最後のチャンスです。

鳥羽水族館のラッコ(提供:PhotoAC)

もし鳥羽水族館へ行く機会があれば、ぜひその貴重な姿を目に焼き付けてみてください。

そして、一緒に行く家族や友人、恋人に「ラッコって実はね……」と、この記事で知った豆知識を教えてあげてください。その意外な一面を知れば、きっとラッコのことをもっと好きになり、大切に感じるはずです。

かわいいだけじゃない、生命力にあふれたラッコたちに、ぜひ会いに行ってみてくださいね。

(サカナトライター:河野ナミ)

参考文献

道東沿岸域において再定着しつつあるラッコの摂餌生態の解明-日米北太平洋ラッコ研究グループ,三谷曜子,北野雄大 ,鈴木一平

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河野ナミ

釣り好きの父に育てられ、幼い頃から多くのサカナを味わってきました。 初めての言葉が「タイタイ」だったほど、サカナが大好きです。 水族館でサカナたちを眺めるのも癒しの時間です。 サカナの魅力をたくさんの方にお伝えしていけるような記事を書いていこうと思います!

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