季節は冬。冬にうまい魚といえば、タラであったり、アンコウであったり、あるいはブリ…といろいろいますが、筆者が先日食べて非常に美味しいと感じた魚がいます。
それがニザダイ。
ニザダイはしばしば磯釣りのゲストとして釣れ、「磯臭い魚」などといわれ敬遠されることも多いのですが、冬にはとても美味しくなる魚なのです。
磯釣りのゲストの定番「ニザダイ」とは
ニザダイPrionurus scalprum Valenciennes, 1835はスズキ目・ニザダイ科・ニザダイ属の魚です(『日本産魚類検索第三版』による)。
全長50センチほどになる大型種で、海藻類から甲殻類までさまざまな餌を食する雑食性の磯魚です。
ニザダイ(提供:椎名まさと)「ニザダイ」という標準和名の由来は“青二才の鯛”という意味らしく、あまりよい感じはしません。
釣り人からは「さんのじ」という名前でよばれていますが、これは本種の尾柄部(びへいぶ)に黒い棘のような板が3~5個あり、そのうちの3つが大きく目立つところから来ているようです。
ニザダイの尾柄部にある棘状の板。取り扱いに注意(提供:椎名まさと)なお、日本に分布するニザダイ属の魚は本種のみで、ニザダイ科のほかの属としては尾柄部に2つ(ボウズハギなどでは1つ)の棘状の板を有するテングハギ属と、尾柄部にひとつの可動式の大きな棘を有するクロハギ属・ヒレナガハギ属・サザナミハギ属・ナンヨウハギ属が知られています。
クロハギ属ニセカンランハギの尾柄部の棘(提供:椎名まさと)いずれも不用意に触れると怪我をするおそれがあるため注意しなければなりません。筆者も、クロハギ属の一種であるニセカンランハギの尾をうっかりつかんでしまい怪我をしたことがあります。
ニザダイの分布は東北地方沿岸~琉球列島にまでおよび、西日本の磯では数が多いようです。ただ沖縄ではあまり市場に出ません。
沖縄の海ではほかのニザダイ科魚類も種・量ともにおおいため、競合しているからかもしれませんが、八重山諸島においてはいても獲らないだけ、とのことです(下瀬環『沖縄さかな図鑑』)。
釣り人からはいい扱いをされないことも
そんなニザダイはおもにメジナを狙っている際にゲストとして釣れることがあるものの、釣り人には残念ながらあまり喜ばれないようです。
強力な引きで竿を大きくしならせ、釣り人には大メジナへの期待をつのらせ、力強いやりとりに興奮させ、慎重にやりとりをしながら、いよいよ魚が揚がってくる……その際に吻部を突き出したニザダイの姿を見て、がっかりしたという釣り人も多いようです。
死んでいたニザダイを拾った(提供:椎名まさと)良心的な釣り人であれば、「なんだよ、さんのじかよ」と声をかけて網で掬い、針を外したあとに海に戻してやるのですが、残念なことに磯や防波堤の上に干からびてしまったニザダイの死骸を見ることもよくあります。そのようなことをしたら魚がかわいそうですし、その場所が釣り禁止になってしまう可能性もあります。慎まなければなりません。
「ニザダイは磯臭いし食べる気にならない」という人も多いらしく、それが上記のような扱いにつながってしまっているのかもしれません。しかしそれでも、釣れてしまったものの、食べない魚を釣り場に放置するような人は個人的に釣りをする資格がないと思います。
美味しくないと言われるが、実はうまいのだ
そんなニザダイですが、しっかり処理すると美味しく食べることができる魚なのです。
私がニザダイを初めて食べたのは2007年の秋のこと。高知県のとある場所で販売されていたニザダイを購入し、食べてみましたが、残念なことにその味はあまりよくありませんでした。
鮮魚の箱のなかにニザダイが(提供:椎名まさと)その後も何度か食べてみましたが、2013年8月のおわりに、高知県宿毛の漁協でおこなわれるセリを見学する機会があり、仲卸の方に複数の鮮魚が入った箱を競り落としてもらいました。
その箱のなかにニザダイが入っていたので、食べてみました。すると、意外にも美味しく、その味に魅せられたのでした。
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