琉球列島は生物多様性が高く、多くの固有種が知られています。
こうした生物相の形成に大きく関係しているとされるのが海面変動です。
とくに氷河期には現在、海で隔てられている島と島の間に陸橋が形成され、生物たちが島間を移動するうえで重要な役割を果たしたと考えられています。
これを示すように両島に分布する多くの動物で、島間の遺伝的な違いが小さいことが報告されてきました。一方で、先行研究ではアイフィンガーガエルにおいて、両島の集団が遺伝的に大きく分化していることがわかっていますが、両集団が分岐した後、陸橋の形成時に遺伝的な交流が生じていたのかは謎に包まれていたのです。
そうした中で、琉球大学理工学研究科博士後期課程の上村亮大学院生らの研究グループは、この謎を解き明かすべくアイフィンガーガエルのゲノム解析を行いました。
この研究成果は『Zoological Studies』に掲載されています(論文タイトル:Genome-wide SNPs reveal long-term genetic divergence despite secondary contact during Pleistocene land bridge formation in Kurixalus eiffingeri (Amphibia: Rhacophoridae))。
海面変動と生物たちの移動
琉球列島は生物多様性が非常に高く、多くの固有種が生息しています。
こうした生物相の形成に大きく関わっているとされるのが、過去の海面変動です。とくに氷河期では海面が低下し現在、海で隔てられている島々も陸橋で繋がっていたと考えられています。
このような陸橋は生物が島から島へ移動する経路として重要な役割を果たしていたとされています。
石垣島と西表島で分化したカエル
八重山諸島の石垣島と西表島の周辺は水深が浅く、氷河期には海面低下により繰り返し陸続きになったとされる地域です。
それを示すように、両島に分布する多くの動物において、遺伝的な差異が小さいことが報告されてきました。
石垣島(提供:PhotoAC)一方、ミトコンドリアDNAを用いた先行研究では石垣島、西表島、台湾に分布するアイフィンガーカエルにおいて、石垣島と西表島の集団が遺伝的に大きく分化していることが分かってきているものの、ミトコンドリアDNAは遺伝情報の一部しか反映しないことから、両集団が分岐した後、陸橋形成時に遺伝的な交流が生じていたのか謎に包まれていました。
島間の遺伝的な関係を調査
今回の研究ではゲノム全体から多数の遺伝的変異を検出できる手法が用いられ、一塩基多型の解析が行われました。
さらに研究グループは、解析により得られたデータを用いて系統解析や集団遺伝解析を実施。石垣島、西表島、台湾の集団間の遺伝的な関係を調べました。
西表島(提供:PhotoAC)その結果、石垣島、西表島、台湾北部、台湾中部に対応する遺伝的なまとまりを確認。特に石垣島と西表島の集団は地理的に近接しているにもかかわらず、それぞれが遺伝的独自性を維持していることが判明しました。
二次接触の時期と氷河期が重なる
次に、石垣島と西表島の集団の過去の交流を検証するために、「分岐後に完全に隔離された」「継続的に交流した」「分岐後の初期のみ交流した」「長期間の隔離後に再び接触した」の4つのシナリオの比較が行われました。
その結果、「長期間の隔離後に再び接触した」というモデルに最もよくデータが適合したといいます。
ミトコンドリアDNAで得られた両集団の分岐年代から推定すると、二次接触の時期は約2万4千年前となり、石垣島と西表島の間に陸橋が形成された最終氷河とも重なったようです。
陸橋上の環境が分散に影響を与える
このような結果から、石垣島と西表島のアイフィンガーガエルは、古い時代に遺伝的に分化した後、氷河期による陸橋形成で再び接触し、限定的な遺伝子流動が生じた可能性が示されました。
一方、陸橋による接触が生じても、遺伝子流動は両集団の遺伝的な分化を解消するほど大きくなかったと考えられています。つまり、島と島が陸続きになっても生物たちが必ずしも自由に移動・交流するとは限らないということです。
アイフィンガーガエルは森林に依存し、樹洞に溜まった水たまりを利用する種です。そのため、陸橋に本種が好む環境がなかった場合、個体の移動、分散が抑制された可能性があるとのこと。
かつて石垣島と西表島に形成された陸橋は、すべての生物を通すのではなく、生物によって移動のしやすさが異なる「フィルター」として機能していた可能性があると考えられています。
島における生物多様性の形成
今回の研究によって石垣島と西表島のアイフィンガーガエルは、遺伝的分化をした後、氷河期による陸橋の形成で遺伝的な交流が生じたものの、遺伝的独自性は保たれてきた可能性が示されました。
この成果は島と島が陸続きになっても、生物が必ずしも自由に移動・交流するとは限らないことを示しています。また、陸橋の形成といった地質学的な要因だけなく生息環境や生物の特性が、島間の遺伝的交流を左右する可能性も示されました。
今後、より広範囲での研究を進めることで、系統間の遺伝的分化が維持されてきた要因を明らかにすること、琉球列島における生物の進化史を詳細に解明することが期待されています。
(サカナト編集部)