水族館には、マイワシをはじめとする“群れで泳ぐ魚”がたくさんいます。大きな群れが隊列を組むかのように、美しいシルエットで泳ぐ姿が印象的です。
しかし、大群で泳ぐ魚たちを見ると「魚同士がぶつからないのかな?」と不思議に思いませんか。そこで今回は「群れで泳ぐ魚が互いにぶつからない理由」について詳しく紹介します。
数百〜数千匹で泳ぐ魚は、なぜぶつからない?
魚の体には、水流や水圧の変化を感じ取るための「側線(そくせん)」と呼ばれる感覚器官があります。
群れで泳ぐ魚たちが互いにぶつからない理由は、側線の能力を活用しているからです。魚たちは周囲の水の動きを敏感に察知しながら、驚くほど瞬時に泳ぐ方向を切り替えています。
側線の配置は魚の種類によって異なりますが、基本的には体の側面に「1本の線」が見られます。例えば、スーパーでもよく見かけるアジの体を観察してみると、側面に並ぶ1本の線がよくわかりますよ。
群れで泳ぐ魚に見られる3つの特徴
群れで泳ぐ魚には、3つの特徴(ルール)が見られます。
それが、ぶつからないように進行方向を変える「衝突回避」、距離・速度を一定に保つ「並走」、距離が離れすぎないように近づく「接近」です。
魚たちはぶつからないように泳ぐだけでなく、距離や速度を一定に保っています。特に大きな群れで泳ぐ魚たちを観察すると、全体の調和を保つようにスムーズな動きが見られるのも印象的です。
魚の群れがチームワークのある動きを見せるのは、上記のような3つのルールで泳いでいるからです。そして、水流や水圧の変化を感知する側線が、変幻自在に姿を変えるような泳ぎを実現しています。
魚が群れで泳ぐ理由
魚が群れで泳ぐ主な理由には、捕食者から身を守る目的があります。とくにイワシのような小さな魚にとって、群れを形成するのは生存率を高めるための効果的な手段です。
多くの小魚が集まる利点には、大きな魚のように見せかけて捕食者の攻撃を避ける「幻影効果」があります。
さらに、攻撃された瞬間に群れが分散すると、捕食者を混乱させる効果が働きます。捕食者が対象を選びなおすため、個々の魚が狙われる確率は低くなるようです。
また、群れを形成することは、方向判断や情報共有にも役立ちます。捕食者の接近やエサ場の位置を瞬時に共有できるため、効率的な生存戦略とも言えるのかもしれません。
水族館で魚の群れを観察してみよう
日本の水族館では、群れで泳ぐ魚の特性を活かしたショーパフォーマンスも実施しています。特に「マイワシのトルネード」は、いまでは水族館の人気イベントのひとつです。
群れで泳ぐ魚をじっくりと観察してみると、瞬間的なスピードや統率のとれた動きには「生き物たちの知恵や戦略」があることに気づきます。いまでは、魚たちの「ぶつからないメカニズム」が、自律走行するロボットカーの研究にも活用されているそうですよ。
もし、水族館やスキューバダイビングで魚の群れを観察するときには、ぜひ1匹1匹の動きにも注目してみてください。
(サカナトライター:taku)