みなさんは「ナンヨウハギ」という魚を知っていますか?
この魚は深い紺碧色をしていて、まるで海の青空のようです。その鮮やかな色から、水族館でもとても人気があります。最近では、ディズニー映画のキャラクター「ドリー」としても有名です。
この記事では、そんなナンヨウハギについて詳しく紹介します。
サンゴ礁にすむナンヨウハギ
ナンヨウハギは、ニザダイ科ナンヨウハギ属に属する海水魚です。インド洋・西太平洋の広域に分布し、日本では高知県より南の温暖な海域で見られます(山下 2002; Kuiter and Delbius 2001)。
主にサンゴ礁域で生活しており、幼魚は枝サンゴの周りで群れを作り、危険を感じるとそのサンゴの枝の間に隠れます。(山下 2002; Randall 2001)。成魚になると、サンゴ周辺だけでなく、より広範囲を泳ぎ回ります(Kuiter and Delbius 2001)。
餌となるのは、動物プランクトンや藻類(Kuiter and Delbius 2001)。実際、バリ島沖では、動物プランクトンと藻類を交互に食べる様子が観察されています(Randall 2001)。
美ら海水族館では、オキアミの他にレタスも与えているそうです(野菜足りてますか?-美ら海だより)。特に、レタスは大好物で10分ほどで完食してしまうほどです(【ナンヨウハギに会いに来てね♪】?美ら海だより)。
ナンヨウハギには毒があることも知られています。毒は背鰭、臀鰭と腹鰭にあり(Randall et al. 1997)、素手で触るときは注意しましょうね。
ナンヨウハギの歴史と現在
ナンヨウハギが属するグループ(ナンヨウハギ属) には、世界中でナンヨウハギ 1種類しかいません(Nelson et al. 2016)。このように、そのグループに他の仲間がいない場合、分類学では「単型(monotypic)」と呼ばれます。ナンヨウハギ属にはナンヨウハギ1種しか含まれていないので、単型といえますね。
遺伝子を使った分子生物学的研究から、ナンヨウハギ属は中新世(1700万年前頃)に他のニザダイの仲間から種分化したと推定されています(Sorenson et al. 2013)。
当時の環境はサンゴ礁が発展し、多様で複雑な生息環境が形成されたことで、これに適応する形でナンヨウハギ属を含む多くの熱帯性魚類が種分化したと言われています(Sorenson et al. 2013)。
特にナンヨウハギは、藻類を効率的に摂取できるように歯の形も進化させてきました。ナンヨウハギの歯の形は、美ら海水族館のブログに素晴らしい写真がありますので、ぜひそちらをご覧ください(野菜足りてますか?-美ら海だより)。
現在、ナンヨウハギ属はナンヨウハギ1種だけが確認されていますが、棲んでいる海域によって体の色が異なることが知られています(Kuiter and Delbius 2001)。特に、西部インド洋に生息するナンヨウハギは、お腹の部分に黄色みがあることが報告されています(Randall 2001; Mason-Parker et al. 2022)。
一部の研究者は、西部インド洋のナンヨウハギが他の地域に生息するものとかなり異なると考えています(Kuiter and Delbius 2001)。現時点では、こうした色の違いが新たな種を示すかはわかっていませんが、将来的に研究が進めば、ナンヨウハギの仲間が増える可能性がありますね。
ナンヨウハギはなぜ青い?
ナンヨウハギと言えば、青・黒・黄の3色です。特に、鮮烈なサファイアブルーは目を引きます。
一体なぜ、青く見えるのでしょうか?
ナンヨウハギが青く見えるのは、色素細胞(魚類では色素胞と呼ぶ)と光の反射によるものです(Goda and Fujii 1998)。ナンヨウハギの皮膚には「イリドフォア(iridophores)」という色素胞があります(Goda et al. 1994)。この細胞は光を反射する構造を持っており、特定の波長の光を反射して青色を作り出します。
このような体の構造をもつため、ナンヨウハギの鮮やかな青色が生まれるのですね。
さらに、一見目立つような青色にはどんな意味があるのでしょうか?
実は、このような色彩は、ナンヨウハギが生息環境に適応した保護色だと考えられます。青いサンゴ礁の海の中では、ナンヨウハギの色彩は背景に溶け込みやすく、捕食者からの目を逃れやすいのかもしれません。
ナンヨウハギの秘密、少しでも興味を持っていただけたでしょうか?
興味が湧いた方は、ぜひ実際に水族館でナンヨウハギを見てみてください。胸鰭をパタパタ動かして泳ぐ姿はとてもかわいらしく、きっと新たな発見や魅力に出会えるはずです!
(サカナトライター:宇野トモキ)
参考文献
山下慎吾. 2002. ニザダイ科. 岡村収・尼岡邦夫(編), 日本の海水魚 3版 株式会社 山と渓谷社 783 pp.
Goda, M., Toyohara, J., Visconti, M. A., Oshima, N., and Fujii., R. 1994. The blue coloration of the common surgeonfish, Paracanthurus hepatus-1-Morphological features of chromatophores. Zoological Science, 11(4), 527-535.
Goda, M., and Fujii, R. 1998. The blue coloration of the common surgeonfish, Paracanthurus hepatus?II. Color revelation and color changes. Zoological science, 15(3), 323-333.
Kuiter, R. H., Debelius, H. 2001. Surgeonfishes, rabbitfishes and their relatives : a comprehensive guide to acanthuroidei. TMC Publishing, 208 pp.
Mason-Parker, C., Daly, R., Keating, C., and Stevens, G. 2022. Reef Fishes of Seychelles. John Beaufoy Pub, 255 pp.
Nelson, J. S., Grande, T. C., and Wilson, M. V. 2016. Fishes of the World. John Wiley & Sons, 752 pp.
Randall, J. E. 2001. Surgeon shes of Hawaii and the World. Mutual Publishing and Bishop Museum Press, Hawaii, 123 pp.
Randall, J. E., Allen, R. G., and Steene, C. R. 1997. Fishes of the Great Barrier Reef and Coral Sea. Second edition. University of Hawai’i Press, 557 pp.
Sorenson, L., Santini, F., Carnevale, G., and Alfaro, M. E. 2013. A multi-locus timetree of surgeonfishes(Acanthuridae, Percomorpha), with revised family taxonomy. Molecular phylogenetics and evolution, 68(1), 150-160.