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野生環境への配慮のかたち

━━館内で繁殖した個体を野生環境に戻すことはしないんですね。

はい。ずっと育てていたものを安易に野生に放してしまうということにはやはり問題があるのかなと思います。

例えば捕獲した時期や種が同じであっても、場所によってその生態的な特性が少しずつ違っていたりとか、 遺伝的なグループに差異がうまれている可能性もあるためです。他の魚ではありますが、実際にそういったことが起こった事例もあります。

データに基づいた放流というケースもあるかとは思いますが、「増えたからじゃあ放そう」という考えは違うのかなと思います。また、野外の生態系のバランスが崩れてしまう可能性もありますので、あまり安直な放流はしないようにするべきなのかなと思いますね。

折り重なるサメたち(撮影:しょうじ)

あとは、水族館でたくさん個体を増やし、それを展示するということは素晴らしいことだと思うんですが、逆に増えすぎてしまうと、 水槽が狭くなってしまうという問題も将来的に起こってくると思うんです。

そういったときには他の水族館との協力が必要不可欠ですね。生きもの同士を交換したり、お互いにやり取りをして、各園館の生きもののバランスを取るという活動も大切だと思います。

━━実際に他の水族館様と協力して増えた個体を交換したという事例は今までにあるんでしょうか。

はい。お互い繁殖できた個体を交換したりということはありましたね。

やっぱりどうしても同じ生物だけをずっと増やしていくと、親となる個体が限られているので、その血縁関係が濃くなってしまいます。遺伝的な関係が近くなってしまうことは、生きものを繫殖する上で必ず避けなければならないんです。

なので、同じ種類であっても個体を別の水族館と入れ替えて、違う血縁の個体をその水族館に入れるというのはすごく大切なことですね。

━━展示の中で、個体をひとつの水槽に対し1種で飼育していないように感じました。

もちろん1個の水槽に1種だけを入れて、展示する水槽がたくさんあればいいんですけれども、 やっぱりそれだけの水槽数がないという問題もあります。

その限られた水槽の中で、いかにたくさんの種類を展示するのかという観点のもと組み合わせを決めています。生息環境やサメの性格、動きや大きさなど……そういったことを色々考えて組み合わせを作って、ひとつの水槽に仕上げます

担当者目線で言わせていただくと、サメたちの同居させる組み合わせであったりというところは、すごく気を使うところなんです。

例えば、近い種類のサメを 一緒に飼ってしまうと、交雑が起こってしまう可能性もあります。それは良くないので水槽を分けなきゃならないなとか、色々な要素を考えて水槽選びを行います。

━━トラフザメの単為生殖でうまれた個体と一般の個体も分けて展示されてますね。

そうですね。単為生殖というかなり特殊で面白い生態的特徴を持ってる個体です。

別の場所でクローズアップさせるような展示ができないかということで、分けて展示をしているところです。

トラフザメが生まれた水槽(撮影:しょうじ)

単為生殖で生まれた子供は、元々ここで生まれた子供なんです。卵は生まれたときに回収してバックヤードで保管しながら成長を見守っていました。

その後無事に生まれたのですが、大きさが問題となりました。うまれたばかりの赤ちゃんサメの大きさはおよそ30センチぐらいで、すごく小さいんです。なので、大きな水槽で親のサメと一緒に飼うことができないと判断しました。

ただ、もう生まれて2年。かなり大きくなりましたので、そろそろまた親と一緒に展示しようかな、とも考えています。

━━ちなみに、単為生殖の個体はちょっと色が薄いような気がしますね。

そうです。トラフザメの幼体は、本当はもっと縞模様のはっきりとした模様なんですけど、1年過ぎた頃からもうだんだんそれが薄くなってきます。育成段階で色が変わっていくんです。

━━単為生殖の個体だから薄いのかなと思いましたが……。

それは多分ないと思います。でも、ちゃんと調べられた例がないと思うんで、逆に面白い研究テーマかもしれませんね。

色白なトラフザメ(撮影:しょうじ)

━━シロワニの水槽でエサを与えていた時は慎重に観察していましたね。そちらではどんな記録をとっていたんですか?

サメたちの健康状態とか、全体的な動きなんかに異常がないかっていうのを見るのはもちろん大事ですが、それ以外にも、それぞれの個体識別をしていて、個体ごとのサメの今日の食欲の状態がどうだったかを観察するようにしています。

アジを今日は何本食べたとか、イカを何枚食べたとかというのは、必ず全個体の記録をつけるようにしています。

中でも、特にメインのシロワニとか、クロヘリメジロザメについては意識して記録をつけるようにしています。

━━他には何か気にされていることはありますか。

シロワニ水槽の中でクロヘリメジロザメの個体2個体だけが、若干傷が目立ちます。というのも、ちょっとやんちゃなクロヘリメジロザメの場合は、シロワニの方に接近しすぎてしまうみたいですね。

鼻先が傷ついているクロヘリメジロザメ(撮影:しょうじ)

シロワニが食べようとする餌に対して、干渉しにいっちゃうんです。そういうタイミングでちょっと歯を当てられちゃったりとか、そういうことが重なると、傷は増えていっちゃいますね。

━━変な言い方ですが、なんだか人間っぽいですね。個性が垣間見えます。

おっしゃる通り、本当に個性はあると思います。 性格も個体によって全然違いますし、食べ方も食欲の強さも変わります。日によっても違いがみられますね。

でも、しっかり毎日毎日観察してないと、それが異常なのか正常なのかがわかりません。それを調べる意味でも、毎日の記録と観察は大切なことだと思います。

サメには未知の部分が多い

━━この機会にずっと疑問に思っていたことを質問させてください! サメがあくびのような口を開ける仕草をするのを見たことがあるのですが、シロワニたちもするのでしょうか。

はい、やります! 人間みたいに眠いからあくびするとか、そういうのではないとは思うんですけど、顎を大きく開閉させるという行動はあります。

━━ちなみに、なぜそのような行動がみられるのでしょうか?

わからないですね。ただ、見てると、顎を開閉させた時に、歯の奥にあるようなカスみたいなのがぱっと取れたりするします。

あとは首を振ったりするような行動もあったりするので、もしかしたらちょっと顔回りに違和感があって口を開けているとか、この辺の筋肉をほぐすために開けてるのかなと。

今ははっきりとはわからないですし、それがはっきりわかった例っていうのは多分今までないと思います。

━━そうなのですね。確かに、サメでわからないことってたくさんある印象があります。

ありますね。飼育してるサメも野生のサメなんかももちろんそうなんですが、わからないことだらけだと思います。

先日、海外の学会に行ってきた際も、アメリカの学者さんであっても「サメっていうのは本当にまだまだ未知な部分が多くて、研究対象としては発展途上の規模だ」ということをおっしゃってましたので、世界的に見てもやっぱりそういう未知なる部分が多いと認知されるような魚なのかなと思います。

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しょうじ

さもないサメ好き人。幼少期から全国の水族館巡りを趣味としながら、大学はデザイン系学科に進学。編集も文字書きも絵もイラストも満遍なくかじりつつ、現在はサメと人との架け橋的存在を目指して奔走中。

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