沖縄やモルディブなど、サンゴ礁の海で潜っているとよく見られる魚に、「全身が黄色く、青白い縦帯が入るフエダイの仲間」というのがいます。
ヨスジフエダイを代表とするこの仲間は、分布域のサンゴ礁においてはごく普通にみられる種であり、黄色い魚が群れでサンゴ礁を泳ぐ姿はきわめて美しいものです。
そんな模様のフエダイ科の魚は互いによく似ているので、「見分けるのが難しい」という人もいるようです。
この青白い縦帯のあるフエダイの仲間の見分け方について、日本産の3種を中心に見分け方を解説します。
青白い縦帯のあるフエダイの仲間
黄色っぽい体に青白い縦帯が入るフエダイ科・フエダイ属の魚は、南アフリカから中南米西海岸までのインド~汎太平洋に広く分布しています。
そのうち日本産は、ロクセンフエダイ、ヨスジフエダイ、そしてベンガルフエダイの計3種です。いずれの種もフエダイ科の魚類としては小型で、概ね全長は30センチ前後です。
これらの魚は浅いサンゴ礁域や岩礁域に生息しているほか、内湾でも見られ、幼魚は河川の河口域に入ることもあります。
なお、このような青白い縦帯があるフエダイ属の魚は、大西洋には分布していません。
大西洋にもクロオビダイやブルーストライプトグラント、フレンチグラントといった、体色が黄色っぽく、青白い縦帯や斜めに帯が入る魚はいますが、これらの魚はイサキ科の魚であり、フエダイ科の魚ではありません。
魚の模様「縦帯」と「横帯」
ヨスジフエダイなどをみた際に、「きれいな横帯(横縞)」と言ってしまうことがあるかもしれません。
しかし、魚の縦帯と横帯については、魚の頭部から尾部の方に走る帯を縦帯といい、魚の背部から腹部の方に走る帯を横帯といいます。そのため間違いやすいので注意が必要です。
一方、紛らわしいものもいます。
ヨスジフエダイなどと同様のフエダイ科・フエダイ属魚類の温帯性の種「ヨコスジフエダイ」という魚は頭部から尾柄にかけて1本の黒色帯があるのが特徴ですが、このヨコスジフエダイの黒色帯は縦帯になります。名前に“ヨコスジ”とありますが、模様は“縦帯”です。
また、「ヨコスジフエダイ」という種の標準和名についても「ヨスジフエダイ」と似ており、そういう意味でも紛らしい魚といえます。
青白い縦帯のあるフエダイの仲間を見分ける
では、日本に分布するロクセンフエダイ、ヨスジフエダイ、ベンガルフエダイの計3種を中心に見分け方をご紹介します。
ロクセンフエダイ Lutjanus quinquelineatus (Bloch, 1790)
ロクセンフエダイは、日本においては伊豆半島以南の太平洋岸、琉球列島、伊豆諸島、小笠原諸島に分布し、国外ではイエメン、オマーンからフィジーに至るインド~西太平洋に生息しています。タイプ産地は日本とされています。
日本においては琉球列島のサンゴ礁域ではもちろん、四国や九州の太平洋岸でも釣れる普通種です(ただし九州以北では小型のものが多い)。
以前は「ろくせんたるみ」「しまたるみ」などと呼ばれていました。学名についてもLutjanus spilurus (Bennett,1833)という学名が使われてきたこともありました。
ロクセンフエダイはヨスジフエダイ、ベンガルフエダイとの見分けは容易です。
本種は体側に5本の縦帯があります(青い矢印)。ヨスジフエダイに見られるような、腹部の細い縦帯は本種には見られません(紫色の矢印)。
写真の個体に見られる体側の黒色斑は出たり出なかったりします。(これはヨスジフエダイも同じ)。
ヨスジフエダイ Lutjanus kasmira(Fabricius,1775)
ヨスジフエダイはインド~太平洋の海に広く分布しているフエダイ科の普通種で、南アフリカからマルケサス諸島までのインド~太平洋域に広く分布しています。
タイプ産地は紅海です。日本においては千葉県以南の太平洋岸、富山、隠岐諸島、琉球列島、小笠原諸島、沖ノ鳥島に見られるとされていますが、日本海側における分布は不明確です。また、関東周辺で越冬できているかは不明とされます。
昔の図鑑では、「すじたるみ」または「すじふえだい」などとされていたこともあります。地理的な変異も多いとされ、一部は別種となるかもしれません。
なお、ハワイ諸島のものはAllen(1985)によると移入とされます。
成魚は岩礁やサンゴ礁域に群れで見られ、水中写真でもお馴染みの魚です。一方幼魚は内湾や河川の河口域付近にも見られますが、低塩分環境は好まないのか、河川に入るようなことはありませんでした。
成魚は群れを作るのに対し、単独または数匹でいることが多いように思います。高知県の定置網では見たことがなく、愛媛県の定置網ではロクセンフエダイが多々入りましたが、ヨスジフエダイは見たことがありませんでした。
鹿児島県でも種子島では定置網では入るようですが、それより北の本土では網に入りません。ただしこれらの地域でも釣りでは漁獲されますし、ダイバーにとってもお馴染みです。
ヨスジフエダイは体側の縦帯が4本あるのが特徴ですが、腹部は白っぽくそこに細い縦線が数本入るのも特徴です(赤い矢印)。さらに頭部の主上顎骨後方から主鰓蓋骨後端にかけて細い青色の縦線が入るのも特徴です(青い矢印。短い青い矢印は後縁をしめす)。
また背鰭棘条数にも違いがあり、ヨスジフエダイは通常、背鰭棘条数10なのに対し、ベンガルフエダイでは背鰭棘条数は11であることによっても見分けられます(黄緑色の矢印)。ただし、ヨスジフエダイでもまれに背鰭棘条数が11の個体がいるので注意します。
また、体側に不明瞭な暗色斑が出ることがあります。これはすべての個体にでるわけではなく、出したり、消したりすることもできるようです。
ベンガルフエダイ Lutjanus bengalensis(Bloch, 1790)
ベンガルフエダイはヨスジフエダイと極めてよく似ています。ヨスジフエダイよりも分布域がやや狭く、インド・ミャンマーから西太平洋にかけて生息。学名の由来としては、タイプ産地がインドのベンガル湾であることからついたのでしょう。
日本においては主に紀伊半島、四国太平洋岸、鹿児島本土沿岸、薩南諸島、琉球列島に見られますが、幼魚は関東でも採集されており、北海道臼尻でも採集されたことがあります。
かごしま水族館による定置網の調査によれば、県本土ではこのベンガルフエダイのみが確認されたのに対し、ヨスジフエダイは種子島でのみ確認され県本土では採集されなかったとのことで、県本土ではベンガルフエダイのほうが多いのかもしれない、としています。
ただし水中写真や釣りでは両種が多数確認できるので、何らかの理由で定置網に入ってこないだけなのかもしれません。
ベンガルフエダイの体側には、ヨスジフエダイと同様に4本の目立つ青白い縦帯があります。しかしその下方の腹部が明瞭に白く、細線が入ることはないためヨスジフエダイと見分けることができます。ただしこの個体は底曳網で採集されたもので、死後時間が経ってしまったため腹部が赤みをおびています。生時や水中写真ではもっと目立った白色をしています(赤い矢印)。
また、主上顎骨後方付近から鰓蓋にかけてのびる線がないという点でも見分けることができます(青い矢印)このほか背鰭棘条数が11であることも見分けるポイントになりますが、先述のようにヨスジフエダイでもまれに背鰭棘条数が11の個体もいるので注意が必要です (緑の矢印)。なお、赤紫色の矢印は3番目の青白い縦帯の開始位置を示します。
なお、ロクセンフエダイやヨスジフエダイの体側後方には薄いが大きな黒色斑が入ることがありますが、ベンガルフエダイではそのような黒色斑は筆者は見たことがありません。種が違うためなのか、それとも筆者が見ていないだけなのかは不明です。
ベンガルフエダイによく似た種
従来ベンガルフエダイは、インド~西太平洋の広範囲に生息しているものとされましたが、現在は3種に分けられています。
インド、ミャンマーから西太平洋に生息するのがLutjanus bengalensisで、これが標準和名ベンガルフエダイです。体側にある青白い縦帯のうち上から3番目のものは鰓蓋骨の中央ないし中央より少し後ろから、後方に伸びていきます。
一方インド洋の西部に生息するホワイトベリースナッパーLutjanus octolineatus(Cuvier, 1828)はベンガルフエダイによく似ているものの、その英名の通りベンガルフエダイと比べて明らかに腹部の白い範囲が広いように見えます。学術的には、体側にある青白い縦帯のうち上から3番目のものは鰓蓋骨の後縁から後方に伸びます。
つまり、ベンガルフエダイよりも後方から縦帯がのびているということです。分布域は南アフリカからセイシェル、マダガスカル、さらには日本人にも人気のリゾートのあるモルディブにおいてもベンガルフエダイは見られず、そのかわりにこの種が見られます。
もう一種は2016年に新種記載されたLutjanus sapphirolineatus Iwatsuki, Al-Mamry and Heemstra, 2016で、この種はオマーンから紅海にかけて分布しています。
この種は体側にある3番目の青白い縦帯が眼のすぐ後方からはじまることにより容易に見分けることができますが、ベンガルフエダイというよりはヨスジフエダイにも似ておりかなり異端な種といえます。
ただし背鰭棘条数は11なので、10であるヨスジフエダイとは見分けられます(水中写真では難しいかもしれませんが)。
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