キンメダイ目・キンメダイ科・キンメダイ属の魚はいずれの種も食用として重要で、世界で3種が知られています。
一般的に魚屋さんで見られるキンメダイ属の魚はキンメダイですが、ところによってはナンヨウキンメ、そしてフウセンキンメが見られることもあります。
これらの日本産キンメダイ属魚類の中でもあまり知られていないのが、フウセンキンメです。
キンメダイ科の魚たち
キンメダイ科の魚たちは、インドー中央太平洋および大西洋の熱帯から温帯にかけて分布しています。
現生、キンメダイ科はキンメダイ属とキンメダマシ属の2属からなり、世界的な魚類データベースである「Fishbase」によればキンメダイ属は3種、キンメダマシ属は7種で、合計10種が知られています。
キンメダマシ属の魚の7種のうち、日本にはキンメダマシのみが分布。キンメダマシはキンメダイ属の魚と比べ、背鰭棘数が5~7と多く、涙骨に鋭い棘がない、などの特徴で見分けられます。
キンメダイ科魚類の代表種キンメダイ(提供:椎名まさと)一方、キンメダイ属の魚は背鰭棘数が4とキンメダマシ属と比べ少なく、涙骨に鋭い棘があるのが特徴です。
キンメダイ、ナンヨウキンメ、そしてフウセンキンメの3種が知られており、日本においては3種いずれも分布。3種のうちキンメダイとナンヨウキンメは、太平洋やインド洋だけでなく大西洋にも分布している広域分布種です。
キンメダマシ属の魚の中には、オーストラリア産のスワローテールCentroberyx lineatus (Cuvier, 1829)のように比較的浅い岩礁域にも生息するものが含まれますが、キンメダイ属の魚はキンメダマシ属の魚より深海性が強く、ふつうは水深100メートル以深に生息しています。
第3のキンメダイ?
キンメダイ科の魚は古くからキンメダイ Beryx splendens Lowe, 1834 とナンヨウキンメ Beryx decadactylus Cuvier, 1829 の2種がよく知られていました。
しかし1959年、同年3月に神奈川県小田原で水揚げされた個体をもとに“第3のキンメダイ”であるフウセンキンメ Beryx mollis Abe, 1959が新種記載されました。
フウセンキンメ(提供:椎名まさと)これによってキンメダイ属魚類は3種となったのですが、その後フウセンキンメの扱いは不安定なものとなりました。キンメダイの新参異名(ジュニアシノニム)とされることも多くあり、掲載されていない図鑑も多くあったのです。
しかしながら、本種はキンメダイと異なる特徴が多く見られるとされ、『日本産魚類検索』やフィリピンの世界的な魚類データベースである「Fishbase」については、本種を有効種として扱っています。
フウセンキンメの分布域は相模湾~鹿児島県の太平洋沿岸、東シナ海、琉球列島沿岸で、ほかに南シナ海や西インド洋に分布しますが、キンメダイやナンヨウキンメとは異なり、大西洋には見られないようです。
フウセンキンメとキンメダイの見分け方
フウセンキンメはキンメダイと非常によく似ているので、この2種を見分けるのは非常に難しいといえます。
筆者がいつも使用しているのは後鼻孔、つまり魚の二つ並んだ鼻孔のうち後ろ(眼に近い方)の鼻孔の形で見分けるという方法です。
フウセンキンメの後鼻孔は楕円形この後鼻孔は、フウセンキンメでは幅の広い楕円形をしています。一方、キンメダイの後鼻孔は細長い亀裂状になっているので見分けることが可能です。
キンメダイの後鼻孔は細長い亀裂状体の形状についても、フウセンキンメのほうが少しばかり丸みを帯びているようにも見え、実際に体高/体長比はフウセンキンメのほうが大きい(フウセンキンメ39.0~43.2、キンメダイ33.9~38.4)という違いがあります。
このほかの見分け方としては、体背部にある鱗の形状と背鰭の鰭条数なども挙げられるでしょう。
体背部の鱗の形状は、キンメダイではなめらかなのに対し、フウセンキンメでは鋸歯状になっています(ただし、わかりにくいことも)。また、背鰭の鰭条数はキンメダイでは4棘13~15軟条(ふつうは14軟条)なのに対し、フウセンキンメでは4棘12~13軟条(ふつうは13軟条)です。
ナンヨウキンメは体高が高い
先述の通り、キンメダイ属にはキンメダイとフウセンキンメのほかにもう1種、ナンヨウキンメという種が知られています。
ナンヨウキンメ(photoAC)その名の通りキンメダイと比べると体高が高く、体長は体高の1.9~2.2倍(キンメダイやフウセンキンメでは2.5~2.9倍)になるため、キンメダイやナンヨウキンメとは容易に見分けることが可能です。
また背鰭の鰭条数も4棘18~20軟条と、キンメダイやフウセンキンメと比べて軟条数が多いということでも見分けられそうです。
フウセンキンメを食べてみる
筆者が初めてフウセンキンメを見たのは2009年でしたが、残念ながらその際は標本となり食べることができませんでした。
その後、2013年に沖合底曳網漁業で漁獲された魚のなかにフウセンキンメが1匹だけ残っており、初めて食することになりました。しかし、これは幼魚だったことから、脂ののった成魚も食べてみたいと思うようになりました。
2022年になり、ようやくフウセンキンメの成魚を入手。早速キンメダイ料理の定番の一つである「煮つけ」でいただくことに。
フウセンキンメの煮つけフウセンキンメの煮つけは、身にしっかりと脂がのっていてきわめて美味しいものでした。
これならキンメダイと同じように使えるでしょう。そして実際、産地においてもキンメダイとフウセンキンメは区別されていないところも多いようです。
次は最後の1種ナンヨウキンメを食べたい
キンメダイ属のもう1種、ナンヨウキンメについても筆者は入手していたのですが、残念なことに成魚ではなく体長20センチ弱で、背鰭や腹鰭の鰭条がよく伸びている幼魚1個体しか入手したことはありません。
次はナンヨウキンメの成魚を入手し、食べてみたいと思っています。
(サカナトライター:椎名まさと)
文献と謝辞
今回のフウセンキンメは鹿児島市 田中 積さん(田中水産:鹿児島市)より入手いたしました。ありがとうございました。
Abe, T. 1959. New, rare or uncommon fishes from Japanese waters. VII. Description of a new species of Beryx. Japanese Journal of Ichthyology. 7:157-163.
尼岡邦夫・松浦啓一・稲田伊史・武田正倫・畑中 寛・岡田啓介編.1990.ニュージーランド海域の水族.深海丸により採集された魚類・頭足類・甲殻類.海洋水産資源開発センター,東京.
益田一・荒賀忠一・吉野哲夫. 1975. 魚類図鑑 南日本の沿岸魚. 東海大学出版会,東京.
中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.
中村 泉編.1986.パタゴニア海域の重要水族.海洋水産資源開発センター,東京.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次. 2007. 東シナ海・黄海の魚類誌.東海大学出版会,秦野.
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