岡山県備前市の祖母の家では、当たり前のように「シャコの塩ゆで」が食卓に並んでいました。
魚介類があまり得意ではなかった私は、あの独特の顔と目が合うと怖くて手を出せませんでしたが、シャコの爪部分だけは心置きなく食べることができたのをよく覚えています。
可食部は少ないのに、あの“味の濃さ”はどこからくるのか──その謎を解く鍵は、水中で驚異的なパンチを繰り出す「捕脚肢(ほきゃくし)」という器官にありました。
私がシャコの爪に魅了された理由
シャコは、甲殻類に分類されている、エビやカニの仲間です。
しかしエビと違い、シャコは茹でても殻から身がはがれにくいのが難点です。そのため、食べる時には背中の殻を取ってから二つ折りにして重なっている部分をかじる、という食べ方をしていました。
シャコ(撮影:高良あさひ)歯でこそぎ落とすような食べ方は当時の自分には食べにくく、また、磯の香りが強い身も少しハードルが高かったです。
それに引き換え、爪の部分──捕脚肢(ほきゃくし)はシャコの旨味が濃縮されていて美味しく、子どもでも食べやすかったので、よく食べていました。
爪に入っている身の量はこれだけ(撮影:高良あさひ)捕脚肢をシャコの体からパキッと引きはがして、ギュッと押し出すと身が出てきます。
なお、シャコの体には棘が多くあるので注意は必要です。
シャコは刺撃型と打撃型の2タイプ
捕脚肢は、シャコの種類によって2つのタイプがあります。
発達したトゲを槍のように突きさす<刺撃(スピアラー)型>と、棍棒のような形で素早いパンチを繰り出す<打撃(スマッシャー)型>です。
鋭いトゲが生えた捕脚肢(提供:高良あさひ)よく食卓にあがるシャコは刺撃型で、トゲを使って獲物を攻撃します。
一方、打撃型のパンチを繰り出す代表種はモンハナシャコでしょう。本種は水族館で展示されていることも多いです。
モンハナシャコの打撃による衝撃波は、水槽を割ることもあるのだとか。
モンハナシャコ(提供:PhotoAC)いずれのタイプも、捕脚肢を素早く動かすことで獲物を捕えます。
弓矢をギリギリまで引き絞ってから放つことで鋭い矢を射るように、内骨格の留め具を外して弾性エネルギーを一気に放ち、すさまじいパンチを繰り出すというわけです。
爪に詰まっているのは強靭な筋肉?
“シャコパンチ”の力を生み出す仕組みについては、長く研究が続けられてきました。
捕脚肢には獲物を捕えるための筋肉が集まっているといい、子どもの頃に私が「爪は味が濃い」と感じていたのも、こうした構造と無関係ではないのかもしれません。
シャコの本体は「捕脚肢」という持論
捕脚肢が繰り出すパンチで獲物を捕え、能力の不思議が多いのも捕脚部分。
一方、シャコは旬の季節や子持ちかどうかで身の大きさや価格が左右されますが、捕脚肢の部分には大きな変化がありません。
なにより、体からパキッと捕脚肢部分を取ってしまえば、あとは押し出すだけと言う食べやすさ、そして味の濃さはピカイチです。個人的には、もはやこちらが“本体”と言ってもいいのでは、と思っています。
かつては庶民の味だった<シャコ>
シャコは、今となっては漁獲量も激減し、寿司ネタとしもなかなかお目にかかれなくなってしまいました。
しかし昔は東京湾でも多く獲れていたため、庶民の味として親しまれていたそうです。
シャコの身は、取ってからすぐに処理をしないと酵素が出て身がボロボロになってしまうため、先に茹でて処理をしておくことで、寿司ネタとしても親しまれたのではないでしょうか。
「カツブシ」と呼ばれる卵も美味しく、コリコリとした食感が特徴的です。
シャコ油でカレーも
我が家では、剥いてすぐのシャコの殻を低温の油で揚げて“シャコ油”を作り、その油でカレーを作ります。魚介の香りがしっかりするコクのあるカレーになりますよ。
子どもの頃の私は、シャコの身にはなかなか手が伸びませんでした。でも、爪だけは別腹ならぬ別枠。
もし、シャコを見た目で敬遠しているなら、まずは捕脚肢から試してみて欲しいです。
(サカナトライター:高良あさひ)