筆者がよく訪れる高知県沿岸には沢山のテンジクダイ科魚類が生息しています。しかし、2020年秋に訪れたときに釣れた魚については、非常に驚かされるものでした。
なんとバンダイシモチという魚が釣れたのです。
そして、これまで数多く見られたテンジクダイ科の魚類層が少しずつ変化していることにも気づかされました。
高知へ釣りに行く
筆者が好きな釣りは夕方から夜にかけての釣りです。この時間に防波堤から釣り糸をたらすと、変わった魚がいろいろと釣れるからです。
高知県での釣り(撮影:椎名まさと)日中はオヤビッチャやロクセンスズメダイ、ナガサキスズメダイといった魚が支配的ですが、この時間になるとこれらの魚は活動が鈍くなり、代わりにカサゴの仲間やハタの仲間、フエフキダイの仲間、ハタンポの仲間といった魚が釣れだします。
そして、イットウダイ科とテンジクダイ科の仲間は、行くたびに変わった種が必ずなにかしら釣れます。しかしながら、この年に釣れた魚は私を驚かせるのに十分なものでした。
まさかのバンダイシモチ!
夜の防波堤で釣りをしているとあたりが──。
竿をあげてみると、丸っこい体のテンジクダイ科の魚がついていました。
なんと、バンダイシモチ Nectamia bandanensis (Bleeker,1854)ではありませんか……!
バンダイシモチはナミダテンジクダイ属の魚ですが、ナミダテンジクダイ属というのは筆者が知る限り屋久島以南の琉球列島と小笠原諸島でしか知られていないグループです。それが、高知県の、長く通ってきた身近な場所で釣れたということで、大変驚いたのでした。
釣れたバンダイシモチをバケツの中で泳がせる(撮影:椎名まさと)テンジクダイ科の魚というのは、死滅回遊魚としてやってくることはあまり多くないように思います。
よく死滅回遊魚として知られるチョウチョウウオの仲間などは、分離浮性卵を産み卵や仔魚期は外敵に食べられてしまいやすいのですが、生き残りさえすればそれなりに長い期間浮遊生活を送り、広い範囲に分散することができます。
一方、テンジクダイ科の魚の卵はそれなりに大きく、孵化するまで親が口腔内で卵を保護するという習性があり、生存率が高まります。しかし、それだと遠くまで生息地を広げるのは困難です。
テンジクダイの仲間では、狭い地域に生息するものも知られているのですが、それは、このような理由があるからです。
ナミダテンジクダイ属の魚たち
ナミダテンジクダイ属の魚はインド-西太平洋、一部の種は中央太平洋のサンゴ礁に広く生息するグループで、日本からは3種が知られています。
体側には背鰭の下に2本の暗色横帯と、尾柄付近にも同様な横帯があり、本種に近縁なホソスジナミダテンジクダイや、ナミダテンジクダイと見分けられますが、模様があまり出ていないことも多くあるため、同定はやや難しいといえます。
以前飼育していたホソスジナミダテンジクダイ(撮影:椎名まさと)「パンダ」ではない!
名前から「パンダイシモチ」と勘違いされることがときどきありますが、パンダではなく「バンダ」で、これは本種がはじめて採集された地名(インドネシアのバンダ諸島、もしくはバンダ海)に因むものです。
なお、イカの仲間にも「バンダコウイカ」というのもいますが、これも地名にちなみ、パンダではありません。
しかし、中にはパンダにちなむ名前をもつ魚も存在します。南米ペルーのアマゾン川水系に生息する小型のカッリクテュス科のナマズ、ホプリソマ・パンダ Hoplisoma panda (Nijssen and Isbrücker, 1971)もそのひとつです。
ホプリソマ・パンダ(撮影:椎名まさと)この種はジャイアントパンダを思わせる白と黒の色彩をもち、この名前がつけられたと、新種記載された文献のなかで記されています。
ただし色彩的には白というよりもベージュ色をしていて、あまり「白黒」感はなく、むしろ、眼を隠すような模様がパンダの顔の周りの模様のように見えます。
ホプリソマ・パンダを正面から見たところ(撮影:椎名まさと)バンダイシモチを飼育してみた
採集したバンダイシモチを持ち帰り飼育してみることにしました。
水槽は幅90センチで、総水量200リットルを超えるオーバーフロー水槽での飼育です。もちろん、海水魚をうまく飼うための設備である、水槽用クーラーとヒーター、プロテインスキマーなどをフル可動させています。
筆者はバンダイシモチと同じ属の種であるホソスジナミダテンジクダイを飼育したことがありました。ホソスジナミダテンジクダイは、丈夫でとても飼いやすかったので、同じように飼育すれば容易なのだと思っていたのです。
飼育中のバンダイシモチ(撮影:椎名まさと)しかし実際に飼育してみると、ホソスジナミダテンジクダイよりは餌付きが悪いように思われました。
ホソスジナミダテンジクダイがすんなりと食べてくれた配合飼料をなかなか受けつけてくれません。魚の切り身やアサリのむき身などは食べてくれましたが、これらの餌は水を汚しやすいという大きな欠点があります。
また比較的病気にもかかりやすいらしく、この個体もやがて餌を口にしなくなって死んでしまいました。どうやら内臓の病気で、あまり清潔でない飼育環境だとこのような問題がおこってしまいやすいようです。
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