海水魚の採集家の中には、チョウチョウウオやキンチャクダイ(ヤッコ)など死滅回遊魚ばかりを採集し、ほかの魚には目もくれないという人たちがいます。
しかし、誰しも「初めて採集した魚」がいるはずです。そして、それはたいていの場合、チョウチョウウオやヤッコではなく、磯にすむ小さなハゼの仲間なのではないかと思います。
中でも、もっとも多いのがアゴハゼとドロメです。この2種は身近な存在でありながら、混同されることも多くなかなか奥が深い魚です。
アゴハゼ属の魚
ハゼの仲間は魚類の中でもとりわけ種類が多く、世界で2000を超える種が知られています。
日本においてもハゼの仲間は570種近くが知られており、河川の上流にすむものから水深200メートルを超える深海にすむものまで、多様な環境に適応したものが生息しています。
千葉県のタイドプールはハゼの仲間の宝庫だ(提供:椎名まさと)我が国の潮だまり(タイドプール)においても、さまざまなハゼの仲間を見ることができますが、その中でも、北海道~九州の磯採集愛好家にとって、もっともお馴染みと言えるハゼがアゴハゼ属の魚たちです。
アゴハゼ属の魚2種
アゴハゼ属はアゴハゼ Chaenogobius annularis Gill, 1859とドロメ Chaenogobius gulosus (Guichenot in Sauvage,1882)の2種からなる小さなグループです。
いずれの種も北海道南部以南の日本各地(琉球列島をのぞく)と朝鮮半島に分布し、ドロメのみ中国青島にも分布しています。
日本産のアゴハゼ属2種(提供:椎名まさと)2種とも潮だまりではよく見られる普通種であり、ごく浅い小さな潮だまりでも、アゴハゼを見かけることがあります。
また、ドロメは「やや水深がある、大きめの潮だまりに多く見られる」という印象があるのですが、場所によってはこの2種が一緒の潮だまりにいることもあります。
アゴハゼ属に似たウキゴリ属
アゴハゼ属に似たハゼ科としてウキゴリ属が挙げられます。本属はウキゴリやイサザなどのような純淡水で見られる種も含み、日本においては16種が知られているグループです。
とくにウキゴリやスミウキゴリなどは河川の中~下流域に見られ、淡水魚を採集するアクアリストにもお馴染みと言えるでしょう。
ウキゴリ属のウキゴリ(提供:椎名まさと)ウキゴリ属の学名はかつて Chaenogobius とされてきましたが、この属のもとになった種は実はアゴハゼであったことがわかり、アゴハゼ属の学名が Chaenogobius、ウキゴリ属の学名は Gymnogobius に変更になりました。
この点からも、このふたつの属は非常に近縁なものであることが伺えます。
アゴハゼ胸鰭の遊離軟条 (提供:椎名まさと)しかし、アゴハゼとドロメは胸鰭の鰭条のうち最上の数本がほかの軟条部分から離れた遊離軟条になるのに対し、ウキゴリ属ではそのようなことはありません。
なかなかわかりにくいのですが、磯でアゴハゼなどを採集した場合には、ぜひともルーペなどで確認してみてください。
アゴハゼとドロメはここが違う!
アゴハゼ属の2種はそっくりではありますが、成魚の見分けはそれほど難しいものではありません。
アゴハゼとドロメの成魚の見分け方は、尾鰭の斑紋で見分けるのが簡単です。アゴハゼの尾鰭は明色で透明に近く、尾鰭には多数の暗色斑が見られます。
一方でドロメは、尾鰭の色がやや暗いか黄色っぽくなっています。
アゴハゼとドロメの尾鰭の違い(提供:椎名まさと)ドロメに見られ、アゴハゼには見られない特徴として、尾鰭の縁辺部が白く縁どられるという特徴もあります。
アゴハゼの場合、尾鰭は透明なのでもし尾鰭が白く縁どられてもわからないと思われます。
尾鰭が白く縁どられるドロメ(提供:PhotoAC)しかし、ドロメは尾鰭に斑点がない、とするのは早計かもしれません。
ドロメでもやや小型の個体では、尾鰭に白っぽい不規則な斑紋が入ることがあり、個体によってはやや大きい個体であっても、斑紋が見られることがあります。
愛媛県宇和島産のドロメ。尾鰭に模様が入っている(提供:椎名まさと)尾鰭の斑紋以外の特徴としては、頤(おとがい)の部分の孔器の数(アゴハゼでは2つ、ドロメで6つの孔器が並んでいる)や、胸鰭の黒い斑点の有無(アゴハゼにはあるがドロメにはない)、ドロメはたまに全身が黄色っぽい色彩になる──などの特徴でも見分けられます。
ですが、これらの特徴で見分けるよりも、尾鰭の模様で見分けるのが、見分けやすいと言えるでしょう。
また、ドロメはアゴハゼと比べて大きく育ち、体長15センチを超えることもありますが、アゴハゼはそれよりもだいぶ小さく、体長8センチほどです。
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