カツオは日本の食文化を語るうえで欠かせない魚のひとつです。
春に水揚げされる“初鰹”と、秋に南下してくる“戻り鰹”——同じ魚体でありながら、漁獲される季節によって脂質量が10倍以上も異なります。
味わいも食感もまるで違う、いわば「別の顔」を持つ魚といえるでしょう。
なぜ同じカツオがここまで変わるのか。回遊の仕組みをひもとくと、その答えが見えてきます。
初鰹の旬は<春から初夏> たんぱく質が高水準
カツオは暖かい海を好む回遊魚です。
春になると黒潮に乗って日本列島に沿いながら北上し、5月ごろには本州中部、夏ごろには三陸沖から北海道南部まで達します。この北上中に水揚げされるカツオを「初鰹(上り鰹)」と呼び、旬は4〜6月ごろです。
カツオの頭部(提供:PhotoAC)北上の途中で獲れるため、まだ十分に餌を食べ込んでいない状態です。
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、春獲りカツオ(生)の脂質は100gあたり0.5gと非常に少なく、たんぱく質は25.8gと高水準です。
身は鮮やかな赤色で締まっており、歯ごたえと透明感のある色が持ち味です。
戻り鰹の旬は秋! 脂質は春獲りの約12倍
夏の終わりとともに、カツオは南の海へ帰路につきます。
三陸沖や北海道南部まで北上したのち、海水温が下がり始める秋口から南下を開始。この時期に水揚げされるものが「戻り鰹」で、9〜10月ごろが食べごろです。
北の豊かな漁場でイワシをたっぷり食べながら過ごしたカツオの体は、南下時には脂肪をたっぷり蓄えた状態になっています。
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、秋獲りカツオ(生)100gあたりの脂質は6.2g。春獲りの0.5gと比べると、その差は約12倍です。
「トロ鰹」とも呼ばれる脂が特徴
魚に特有の栄養素である、EPA(イコサペンタエン酸)は春の約10倍、DHA(ドコサヘキサエン酸)は約8倍にのぼり、栄養面でも充実しています。
腹側の身など脂のりが特によい部位は「トロ鰹」と呼ばれることもあり、マグロのトロに例えられるほどです。
トロ鰹(提供:PhotoAC)個人的にはさっぱりした初鰹の赤身も捨てがたいのですが、戻り鰹のほうが好みです。
厚めに切った刺身を口に入れると、脂がじんわりほどけていく——あの感覚はほかの魚ではなかなか味わえません。
それぞれの美味しい食べ方は?
脂の少ない初鰹を美味しく食べるなら、やはり薬味の力を借りるのがいいでしょう。
ねぎやみょうが、しょうが、にんにくをこれでもかというほど盛って、炙ったたたきと一緒にいただく。香りの強い薬味が、さっぱりした赤身のよさをぐっと引き上げてくれます。
薬味がたっぷり乗ったカツオのたたき(提供:PhotoAC)戻り鰹の場合は、むしろ手をかけないのをおすすめします。
脂そのものに甘みと旨みが詰まっているので、厚切りの刺身をそのまま口に運ぶだけで十分なのです。
カツオの刺身(提供:PhotoAC)「カツオのたたき」はどうして広まった?
農林水産省「うちの郷土料理」には、高知のたたきについて、“漁師が船上で食べていたまかないが広まったものとされる”と記されています。
鮮度管理の手段がなかった時代、傷みかけたカツオをなんとか食べようとした工夫が、今の料理に形を変えて残っているわけです。
その高知では、塩だけでたたきを食べる「塩たたき」が今も根強く残っています。ポン酢の酸味を使わず、粗塩だけで脂の甘みを受け止める——戻り鰹の美味しさを一番素直に感じられる食べ方かもしれません。
1
2