「もし今、海に落ちたら、自分はどうなるんだろう……」
海のレジャーや釣りを楽しむ人なら、一度はそんな不安が頭をよぎったことがあるかもしれません。
広大な海の上では、わずかな遅れが命取りになります。
そんな海の“もしも”に、テクノロジーと地域の絆で立ち向かっているのが、株式会社よびもり代表の千葉佳祐さんです。
自身も海への深い想いを持ち、自ら海に飛び込んでサービスの開発を続けたと言う千葉さんに、お話を伺いました。
株式会社よびもり代表の千葉佳祐さん(提供:株式会社よびもり)原点は「おじいちゃんの事故」 家族としての痛みが事業へ
━━━ 「よびもり」という命を守るサービスを作ろうと決意した、最も大きなきっかけを教えてください。
原点は、漁師をしていた私の祖父が海で事故に遭ったことです。
大学院で福岡にいた頃、起業を目指してビジネスコンテストに挑戦していました。でも、評価されるためのアイデアばかりを考えている自分に違和感があって。
「自分が本気で取り組めることは何か?」とゼロから考えたとき、おじいちゃんの事故と、その時に家族が抱いた、居ても立ってもいられない不安な気持ちが蘇ってきたんです。
━━━ 家族の視点がきっかけだったのですね。
そうです。
「海へ送り出す側の不安」を解消したい──それが私のやるべきことだと確信しました。
「救助を呼ぶお守り」に込めた家族を繋ぐ仕組み
━━━ 「よびもり」は具体的にどのような仕組みで安全を守るサービスなのでしょうか? また、ネーミングに込めた想いも教えてください。
よびもり端末のボタンを5秒押すだけで、周囲の仲間や漁協、家族のスマホに位置情報付きのSOSが届く仕組みです。
よびもりのサービスイメージ(提供:株式会社よびもり)名前は「救助を呼べるお守り」からきています。海へ出る人に、家族が「気をつけてね」と手渡すようなシーンを想像しました。
単なる機械ではなく、送り出す側の愛が形になった「お守り」でありたいという願いを込めています。
━━━ 千葉さん自身が海に飛び込んでテストをされたというエピソードが印象的です。実際に海に入って、何を感じましたか?
博多湾でのテスト中、一人で漂流していると、足に何かが当たるんです。それが流木なのか、魚なのか、エイなのか……。海の中は見えないし、底がどうなっているかも分からない。
その瞬間に襲ってきた「このまま見失われたらどうしよう」という恐怖は、机の上で考えていただけでは絶対に分からなかった。この恐怖を、誰にも味わわせたくないと強く思いました。
学生メンバーで作ったプロトタイプがしっかり動くのか、漁師の方が実際にたどり着けるのか、未検証なコンセプトに体を張ったことも非常に怖かったです。
救助開始を1秒でも速く―速さこそが命を繋ぐ―
━━━ 他の安全装置と比べて、絶対に譲れない独自のルールは何でしょうか?
「1分以内に救助を始める」という速さです。
公的な救助機関が来るのを待つ間、海の上では命が削られていきます。
現場に最も近い仲間が、瞬時に気づいて動き出すこと。この初動の速さこそが、生死を分けるんです。
━━━ これまでに利用者から届いた言葉で、特に印象的だったものはありますか?
ある漁港でおじいちゃんの漁師さんが、船の間かどこかに落っこちてしまったんです。パニックになるような状況でしたが、その方は「よびもり」のボタンをしっかり押してくれました。
それによって周囲の漁師さんたちがすぐに気づき、駆けつけて引き上げることができました。
誰も気づかず最悪な事態になる可能性もあったので、「よびもりがあってよかった、助かった」と思えた瞬間でした。
漁業全体を変える 「帰り」を待つ不安の解消
━━━ サービスが広がることで、漁師さんの気持ちや仕事にどんな変化が生まれると考えていますか?
漁師さんは常にリスクを抱えて仕事をしていますが、実は「家族に心配をかけたくない」という思いも強いです。
「よびもり」があることで、家族の不安が減り、本人が安心して仕事に集中できる──それが漁業という職業全体の誇りや、継続性にも繋がっていくと信じています。
よびもりのサービス説明をする様子(提供:株式会社よびもり)━━━ 現地の漁協や業者さんとお話しされる中で、印象に残っていることはありますか?
最初にお客さんになってくれた漁協でのことです。
最初は厳しい意見が出るかと思いましたが、お話ししていくうちに「実は身内が事故で亡くなっていて……」と話し始める方がいて、最終的には「このサービスは必要だ」と、受け入れてくださいました。
現場の方々の切実な想いに触れた瞬間でした。
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