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コラム

「水族館で魚を撮ろう」と思うワケ ─レンズを通してみる魚類展示─【連載:わたしと水族館】

水族館は、不思議な場所です。同じ水槽を見ていても、そこに映るものは人それぞれ。魚の姿に心を奪われる人もいれば、静かな時間に安らぎを感じる人もいます。研究の対象として向き合う人、仕事の現場として日々関わる人にとっては、また違った景色が見えていることでしょう。連載「わたしと水族館」では、さまざまな立場の書き手のみなさんに、水族館にまつわるエッセイを寄せていただきます。今回は、水族館にまつわる個人ブログを運営するアルさんにご寄稿いただきました。

わたしはここ数年、毎年おおよそ20〜40箇所ほど、回数で言えば年間60〜70回くらい水族館に足を運んでいる。本当はもっと毎日のように(かつ平日に)どこかの水族館に行きたいのだけれど、サラリーマン稼業という都合上なかなかそうもいかない。「毎日あちこち水族館に行くだけで生きていける仕事」があればぜひ就きたいものだと切に願っている。

それくらいの頻度で水族館に足を運んでいると、ふと「自分はなにを求めて水族館に足を運ぶのだろうか」という自問自答が湧いてくる。

水族館への訪問動機は「美しい水槽を見て心癒されるから」だったり「お目当ての生きものがいるから」だったり「珍しい生き物が見たいから」だったりと人それぞれだ。

自分の場合は幼少期からとにかく魚を眺めているのが大好きで、今でも「各地の水族館のすぐれた魚類展示をこの目で見たい」「できれば写真に残したい」という思いが、水族館に何度も何度も足を運ばせる理由になっている。

そんな旅の記録を残したくて『水族館で、魚を撮ろう。』という名前でささやかながら個人ブログを立ち上げて10年近くが経つ。その間に新型コロナの流行があったり、いくつかの水族館が姿を消してしまったり、またいくつかの水族館が新しく生まれたりしているけれど、「カメラを携えて、水族館の魚たちに会いに行く」という自分の行動パターンは、基本的に変わっていない。

水族館の主役は「魚」である!

水族館での生物展示は大きく「海獣展示」と「魚類展示」に分けられる。ウミガメは海獣だろうか?淡水ガメの水槽はむしろ魚類展示に近いのではないだろうか?クラゲや甲殻類などの無脊椎動物は魚類展示とは分けるべきだろうか?などと細かく考えだせばきりがないけれど、ごくごく大まかに二分するとすればこの区分になる。

そして、一般的にイメージされる「水族館の人気者」はたいていが海獣展示の側である。シャチ、イルカ、ペンギン、アザラシ、アシカ、ラッコ、カワウソなど人気者たちの名前を挙げていけばきりがない。

ここで少々意外なことに、この人気者であるはずの海獣類を展示していない水族館が一定数存在している。ざっと数えてみたところ、国内の水族館については「海獣類がいない水族館」がおおよそ半分程度を占めているようだ。

その一方で「魚がいない水族館」というのは、おそらくほぼ皆無である。日本には「ペンギン」とか「エビカニ」とか、特定の生きものに特化した水族館がいくつか存在するけれど、それらの水族館にも大なり小なり何かしらの形で、魚類は展示されている。

つまり水族館を構成するさまざまな展示要素のうち半分以上は「魚類展示」なのだ。水族館という世界を余すことなく楽しもうと思ったらイルカやペンギン、ラッコといった「人気者たち」だけでなく「魚類展示」にも目を向けてみるとよくて、そうすることで水族館で過ごす時間はずっとずっと奥深いものになってくれる。

やや暴論かなとも思いつつ、「水族館の主役って、実は魚類展示だぞ!」と心の中で思いながら水族館に足を運び、魚たちの姿を眺めている。

ついでに少しだけ現実的な話をしてしまうと、水族館での海獣展示の未来は残念ながらあまり明るいものではない。野生個体の入手難易度の問題、動物福祉的な観点、飼育コストの側面……などと理由はいくつか想像できるけれど、20年後、30年後の水族館では、残念ながら海獣展示の比率は今より減っている可能性が高そうだ。

(※これらの生きもののファンの方々を悲しませるつもりも「海獣ファン vs 魚類展示ファン」という対立を煽るつもりももちろんなく、そしていま現在これら海獣類の飼育や繁殖に携わっている方々には心の底から敬意を抱いている。水族館や動物園での長年の研究の賜物で飼育技術が確立され、血統維持や域外保全の取組みに繋がっているのはまぎれもない事実だ)

わたし自身は特定の生きものや個体のファンというよりは「水族館」という存在そのものが好きで、「30年後も水族館に通い続けていたい」と思いながら生きている。

もしかするとその頃にはますます「魚しかいない」水族館が主流になるのかもしれなくて、ならば今のうちから魚類展示を見る目の解像度を上げておいた方が、水族館という世界をより奥深く、末長く楽しめるのではないかとも思っている。

だから魚たちの世界にもっと深く踏み込んでみたい。でもわたしは水族館の飼育員でも研究者でもなくて、なんならダイビングのライセンスも持ってなくて、水槽のアクリルのこちら側から水中世界を眺める一人の観覧者でしかない。

そんな自分がほんの少しだけ魚たちの世界に近づけるのが「カメラ」というツールだった。

カメラを通して見える魚たちの世界

さて、ここからはわたしなりの「水族館での魚の撮り方」を紹介してみたい。といっても、わたしはプロの写真家ではなく撮影技術に長けているわけでもないので、あくまで「魚好きがカメラ持ってみたらこうなった」という視点で捉えていただければ幸いである。

「魚たちの世界」を広く撮る

最近の水族館では、単に魚を水槽に泳がせるだけでなく、生息環境を丁寧に再現したりその魚種の特徴を分かりやすく伝えるようにしたりと、さまざまな工夫が凝らされている。

水族館というのはもちろん生きものの姿を見る場なのだけれど、「その生きものの魅力をどう伝えるか」という飼育員の方々の創意工夫がぎゅっと詰まった場所でもあり、その「人為」に気付いた瞬間がたまらなく楽しい。

初めて訪問する水族館では、まずは少し引いた場所から広角レンズで水槽全体を眺めることにしている。本物の植物を植えて水辺の植生を再現していたり、精巧な擬岩や水流、照明で身近な海の中を再現していたりとさまざまな発見がある。

養殖業が盛んな親潮域の海。本物のホヤが吊るされている 2023年3月撮影(撮影:アル/撮影場所:アクアマリンふくしま)

「魚たちの暮らし」をそっと見守る

展示全体を俯瞰で堪能したら、次はいよいよ魚たちの暮らしにぐぐっと迫ってみたい。状態よく管理された水槽であれば、魚たちは群れて泳いだり縄張り争いをしたり、そしてときには求愛行動や繁殖行動を始めたりと、野生さながらの姿やそれぞれの習性を見せてくれる。

ここで不用意に近づいたり大きな足音や振動を立ててしまうと、魚によっては驚いて隠れてしまったり、水槽の奥へ泳ぎ去ってしまう。望遠レンズが1本あれば、水槽から少し離れた場所から魚たちのありのままの世界をそっと覗くことができ、生きものたちに余計なストレスをかけることも少ない。

マボヤの体内に産卵する習性のあるクダヤガラ。先ほどと同じ水槽にて 2023年3月撮影(撮影:アル/撮影場所:アクアマリンふくしま)

「魚の細部」に寄ってみる

魚によっては、こちらが水槽ギリギリまで近づいても驚いたり逃げたりせず、そのままの姿を見せ続けてくれることもある。そんなときはマクロレンズの出番だ。

魚たちの顔や鰭、鱗、発眼卵など細部にぐぐっと寄ってみると、ときには肉眼では気づかないような細かな造形美に気づかされることもある。

口内飼育中のネオンテンジクダイ。卵が透けて見えている 2023年5月撮影(撮影:アル/撮影場所:アクアマリンふくしま)

水族館撮影のルールとマナー

わたしは前述のような撮影スタイルで水族館に通っているため、交換レンズ3本(広角レンズ、望遠レンズ、マクロレンズ)とカメラ本体2〜3台が基本的な機材セットになる。

水槽への反射を避けるため、服装は上下黒服だ。時には口元も黒いマスクで、カメラを持つ指先も黒い手袋で隠している。

このような風体の人物がひとり水族館内を右往左往していたらどう見えるか。必然的に不審者である。

本来単なる趣味の1ジャンルを指していた「撮り鉄」という言葉はいつの間にかネガティブな意味を帯びてしまったけれど、「水族館撮影」というせっかくの素晴らしい趣味界隈が同様の末路を辿ってしまわないことを、わたしは心の底から願っている。

そこで、「水族館で魚を撮る」ときの最低限のマナーを少しだけ挙げておきたい。

水槽を独占しない

全身黒ずくめで大きなカメラを携えた人物はどうしたって目立つ。それが1つの水槽に長時間張りついて他の人の観覧を妨げていたらなおさらだ。

「長時間とは何分までか」みたいなことは館内の広さや水槽の大きさ、混雑度合いにも依るので一概には言えず、そんな堅苦しいルールなんて作るべきでもないけれど、撮影に集中している最中も常に周囲の人(特に背後)の気配には気を配っておきたい。

フラッシュ/ストロボを焚かない

SNS上などでときどき話題になる、フラッシュ撮影問題。園館によって「全面NG」だったり「原則OK」だったりとルールがまちまちなので尚更ややこしい。

「生きものの健康面に影響があるかどうか」という点はケースバイケースではっきりと結論できないけれど、それ以前に「暗い館内で急にフラッシュを焚くと周囲で観覧する人に迷惑」ということで、個人的には全面禁止でいいんじゃないかと思っている。

ちなみに、最近の一眼カメラは内蔵フラッシュ非搭載の機種が増えている。暗所撮影性能が飛躍的に向上しているので、もはや不要な装備になりつつあるのだろう。

館内で見ている限り、水族館内でフラッシュを光らせているのはスマホユーザーか、外付ストロボを装備してくる遠足カメラマンの方が多いようだ。

アクリル面を傷つけない

水族館の水槽の素材はアクリル樹脂が主流である。ガラスと比べると「軽い・透明度が高い・加工が容易」といいことづくめだけれど、大きな欠点が1つある。ガラスと比べて柔らかい素材なのだ。

そのため、カメラやスマホなどをぶつけてしまうと簡単に傷がつく。夢中で魚たちを撮っているとついつい水槽に近づきすぎてしまうので、くれぐれも気をつけたい。

柔らかいラバー製フードをレンズに装着するのも有効な対策だ。

他にも細かいことを言い出せばキリがないけれど、ここでは割愛する。そもそもあんまりアレコレと細かいルールを語るのが好きではないのだ。最低限、先ほど挙げた3点にさえ気をつけていれば、今のところ基本的には大丈夫だと思っている。

ここまで読んで「今度水族館に行ったら、魚の写真でも撮ってみるか」と思われた方が1人でもいれば嬉しい。機材だったり撮影マナーだったりと小難しい話もしたけれど、まずは最寄りの水族館に行き、手持ちのスマホで水槽を撮ってみましょう。最近のスマホカメラの性能は素晴らしくて、下手に一眼カメラに手を出すよりもずっと気軽に綺麗な写真が撮れるはず。

それでもなんだか物足りなくてあれこれ機材が欲しくなってしまったら……それはもう立派な“水族館撮影沼”の入り口です(笑)。

最後に「どうしても水族館で上手く写真が撮れない」という方向けのとびきりの展示を紹介したい。

伊勢シーパラダイスより「絶対に写真が綺麗に撮れるコーナー」。

絶対に写真が綺麗に撮れるコーナー 2025年12月撮影(撮影:アル/撮影場所:伊勢シーパラダイス)

なんと黒い暗幕で部屋ごと仕切ることができて、水族館撮影の大敵である「水槽面への反射」をほぼゼロに抑えられる。そのうえ全身をすっぽり覆う黒いポンチョまで用意されているし、照明の明るさや色合いはリモコンで自由に調整できる。

絶対に写真が綺麗に撮れるコーナー 2025年12月撮影(撮影:アル/撮影場所:伊勢シーパラダイス)

いったい誰が考えついたのか、本気度が高すぎる。きっと水族館の中の人にも「お魚撮影ガチ勢」がいるんだろうな。

アル●1982年生まれ、東京出身。

子どもの頃からの魚好きで、将来の夢は水族館のお兄さん。某大学水産学部卒、某大学院農学研究科修了。現在はサラリーマン生活を送りながら、マイペースに水族館巡りを続けている。その他、不定期でWEB記事の執筆、水族館仲間とのオフ会や水族館貸切イベントを主催。サカナトライターとしても活躍中。旅先で飲む缶ビールが好き。

個人ブログ:『水族館で、魚を撮ろう。』

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