アジの仲間は日本では60を超える種が知られており、そのほとんどすべての種が食用魚として重宝されています。
アジといえば、細長い、あるいは楕円形の体に、稜鱗(ぜんご、ぜいご)があって……というイメージが強いですが、中にはとてもアジの仲間に見えないような種もいます。
その中でも特に一般的なアジのイメージとかけ離れた姿をしているのが、クロアジモドキです。
クロアジモドキとは
クロアジモドキ Parastromateus niger (Bloch, 1795)はスズキ系・アジ目ないしはスズキ目・アジ科・クロアジモドキ属の魚です。
標準和名の通り、全身が暗色をしていて、体高はほかのアジの仲間と比べて高いことが特徴として挙げられます。
クロアジモドキ(提供:椎名まさと)日本におけるクロアジモドキの分布は、青森県~九州までの太平洋岸、兵庫県、山口県、九州の東シナ海沿岸、琉球列島と小笠原諸島ですが、いずれも数は多くありません。
一方、海外ではインド-西太平洋に生息し、“熱帯性の魚”と言えるでしょう。なお、古くはその分布域に「ハワイ」が含められていましたものの、それは誤りの可能性があります。
クロアジモドキの分類
変わった見た目のクロアジモドキですが、その見た目から分類学的位置がなかなか定まっていない魚でもありました。
というのも、暗色の色彩や鰭の形などが、一般的によく知られているアジの仲間とは別のグループのように思われていたのです。
実際に以前はアジ科ではなく、スズキ目・アジ亜目の別科クロアジモドキ科 Family Formiidaeとされてきたこともありました。(かつてクロアジモドキ属の学名は Formio ともされていた)。
しかし近年は、クロアジモドキはアジ科のなかでも、どうもオキアジやヨロイアジなどと近いグループにあると考えられています。
クロアジモドキに似た魚
そんなクロアジモドキにはよく似た魚がいます。それがマナガツオの仲間です。
フィリピンの魚類データベース「Fishbase」によれば、クロアジモドキの英語名は Black pomfret といいますが、その「pomfret」とは、マナガツオやシマガツオの仲間を意味するのです。
クロアジモドキとマナガツオ科(提供:椎名まさと)また、クロアジモドキの現在の属学名 Parastromateus は、「側の」とか「似た」という意味である「Para」と、マナガツオ科に含まれる属のひとつである「Stromateus」を組み合わせたもので、「Stromateus属に似たもの」という意味になります。そして実際、最初に記載されたときの学名も Stromateus niger という学名でした。
ただし、この Stromateus属は分布域が大西洋と南東太平洋に限定され、また外見もクロアジモドキやマナガツオとは大きく異なっています。
クロアジモドキとマナガツオ
筆者的に、クロアジモドキと雰囲気が似るのは日本近海のマナガツオの仲間のように思います。ただし、両者は形態的に異なる点が複数あります。
クロアジモドキでは尾柄部に鋭い稜鱗があるのに対し、マナガツオの仲間ではそれは見られません。また、マナガツオの仲間は後頭部に波状のリッジ域があるのに対し、クロアジモドキではそれはないことで見分けられます。
コウライマナガツオに見られる波状のリッジ域(矢印)(提供:椎名まさと)このようによく似ている両者ですが、分類学的には近いものではなく、『日本産魚類検索第三版』では、クロアジモドキはスズキ目・スズキ亜目のアジ科に、マナガツオはスズキ目・イボダイ亜目のマナガツオ科に分類されていました。
その後、マナガツオ科などのイボダイ類はサバの仲間などを含む「ペラジア(マグロ・カツオ・サバ類など15科の魚類の共通分類群名)」の一群として考えられるようになり、2026年現在、Fishbaseなどではマナガツオ科はシマガツオなどと同じ、サバ目の一員として扱われています。
クロアジモドキを観察してみた
2017年の秋、なじみの魚屋さんからクロアジモドキを入手することができたことから、いろいろな部位を観察してみました。
クロアジモドキと他のアジ科魚類の最大の違いは、腹鰭が外見上は無いことです。しかし、完全に無いというわけではなく、皮下に埋没してしまうというもので、幼魚には明瞭な腹鰭が存在します。
青い矢印が腹鰭の痕跡か(提供:椎名まさと)また成魚は全身が黒く斑紋は特にないのですが、幼魚は全身が黄色っぽく、体には幅広い横帯が入ることが特徴です。
アジの仲間の大きな特徴といえば、稜鱗、いわゆる「ぜんご」「ぜいご」があることのほか、臀鰭前方に2本の遊離臀鰭棘があることもあげられます。アジ科の中にはブリの仲間やイケカツオの仲間など稜鱗がないものもいますが、この遊離臀鰭棘があることによりアジ科に含められます。
しかし、クロアジモドキでは外見上、臀鰭遊離棘は確認できません。どうやら皮下に埋没してしまっているようです。
紫色の矢印のところに本当は遊離臀鰭棘があるのだが(提供:椎名まさと)もっともこの特徴はクロアジモドキだけでなく、本種に近縁とされるオキアジ属の魚についても、遊離臀鰭棘は皮下に埋没しています。
アジ科の大多数の種がもつ特徴と言えば「稜鱗」。しかしながらこのクロアジモドキの尾柄部にあるそれは外見上あまり目立たないものであり、他のアジ科とは異なる雰囲気で、古い本では「隆起縁」「隆起線」などとされていました。
稜鱗(ベージュの矢印)(提供:椎名まさと)うかつにつかむと結構痛いので注意しましょう。
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