昨今の深海魚ブームは食文化にも広がっており、都会のスーパーなどでも深海魚が並ぶようになりました。そのよく知られたもののひとつが「めひかり」。標準和名はアオメエソというのですが、「めひかり」の名前のほうがよく知られているようです。
そんなアオメエソは全長15センチほどとさほど大きくはないのですが、アオメエソが属するアオメエソ科には全長30センチを超える大きなものも知られています。今回はそんなジャンボな「めひかり」の正体、そして美味しい食べ方をレポートしていきます。
美味しい深海魚「めひかり」はスーパーに並ぶことも
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image1-6.jpg)
「めひかり」はアオメエソ科の何種かを指しますが、とくにアオメエソとマルアオメエソの2種を指すことが多いようです。
一般的にアオメエソは相模湾以南に見られ、マルアオメエソは銚子以北に見られるなど分布域や形態に違いがあるものの、その違いはわずかであり、マルアオメエソはアオメエソと同種である可能性が高いです。
もし同種とされるのであれば、種の標準和名はアオメエソが、学名はChlorophthalmus albatrossis Jordan and Snyder,1904が有効とされるでしょう。
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image5-7.jpg)
標準和名アオメエソも、地方名のめひかりも、眼が緑色に光り輝くところからきています。この仲間は英語名でもGreeneyesと呼ばれ、これも眼の色彩から来ているようです。
そして属学名のChlorophthalmusも「緑色の眼」を意味し、種小名については、1900年にアメリカの蒸気船アルバトロス号が日本の相模湾で採集したものをもとに、1904年に新種記載されたことから来ているようです。
ジャンボサイズの「めひかり」は<トモメヒカリ>
アオメエソは全長15センチほどの小魚ですが、アオメエソ科の中には全長35センチ近くになる大型の種も知られています。
それがトモメヒカリChlorophthalmus acutifrons Hiyama, 1940という種で、この種は駿河湾~九州までの太平洋岸と九州の東シナ海沿岸、稀に青森県~茨城県沿岸、海外では済州島、台湾、南シナ海、フィリピンからオーストラリア、東インド洋の水深950メートル以浅の深海に生息しています。
タイプ産地は熊野灘の水深500メートルから採集されたものとされています。
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image7-4.jpg)
今回食するのは鹿児島県産で、おそらくエビ漁の際に漁獲されたものです。
体色は茶褐色で、体側の模様はアオメエソと比べて小さいように見え、体の形もひょろっとしたアオメエソよりもがっしりとしています。
特に頭部から後方の盛り上がりがすごいのですが、眼が緑色に光り輝き美しいのはアオメエソと同じです。
アオメエソ科の分類
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image4-6.jpg)
アオメエソ科は3亜目からなるヒメ目に分類されています。このヒメ目のなかで、釣り好き・魚好き、あるいは磯遊び好きにとってもっとも身近な存在というのはエソ科です。
エソ科の魚は釣り人にとってはあまり歓迎されていないゲストではありますが、実際にはかまぼこなど練もの製品の原料として欠かせない魚でもあります。
エソ科はヒメ目のヒメ亜目に含まれ、ヒメ亜目にはほかにヒメ科、ホタテエソ科が含まれます。
一方、アオメエソ科はミズウオ亜目に含まれます。
このミズウオ亜目は深海性の魚が多く、ミズウオをはじめ、デメエソやフデエソの類、「三脚魚」という別名でも呼ばれるイトヒキイワシなどもミズウオ亜目に含まれ、確かにイトヒキイワシなど、長く伸びる鰭条などをのぞけばアオメエソ科の魚に似ているように思います。
古い図鑑で「アオメエソ科」とされていたのは多系統のグループです。
アオメエソ科の中に含まれていたイトヒキアオメエソ、ナガアオメエソ、モンアオメエソ、モンツキアオメエソなどの種は、現在はナガアオメエソ科という別科に含められており、科どころかさらにその上の「亜目」まで異なるグループとなっています(ナガアオメエソ亜目)。
もう1種、オニアオメエソもアオメエソ科と同じミズウオ亜目ではあるものの、オニアオメエソ科という別科に含められています。
現在、アオメエソ科に含められる日本産種はトモメヒカリ、ツマグロアオメエソ、バケアオメエソ、アオメエソ、マルアオメエソ、ヒレグロアオメエソ、ヒレナガアオメエソの計7種ですが、先述のようにマルアオメエソはアオメエソと同種とされ、シノニム(同一と見られる分類群に付けられた学名が複数ある状態)となり消える可能性もあります。
トモメヒカリの近縁種ツマグロアオメエソ
トモメヒカリによく似た種として、ツマグロアオメエソChlorophthalmus nigromarginatus Kamohara, 1953という魚がいます。
ツマグロアオメエソはトモメヒカリほど巨大ではないものの、それでも全長25センチほどになり、アオメエソよりも大きく育ちます。
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image3-6.jpg)
またツマグロアオメエソは熊野灘以南に分布しており、トモメヒカリよりも北限が南よりのようです。
四国沿岸(高知県足摺岬沖、豊後水道宇和海)ではツマグロアオメエソは多く見られましたが、トモメヒカリは少ないように感じられ、逆に九州ではトモメヒカリのほうが多いように思われ、この違いには何が作用しているのか興味深いところです。
ちなみにツマグロアオメエソは高知県足摺岬~土佐湾では水深150メートルほどの場所で漁獲されており、同海域で270メートル以深で漁獲されたアオメエソとはすみ分けができているように思います。
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image8-5.jpg)
ツマグロアオメエソはトモメヒカリに似ている種ではありますが、標準和名に「ツマグロ」とあるように、尾鰭の縁辺が明瞭に黒いことで見分けることができます。
ツマグロアオメエソと名前がよく似たヒレグロアオメエソは背鰭の前下方に大きな黒色斑があり、見た目はトモメヒカリやツマグロアオメエソよりはアオメエソなどに似ています。
またヒレグロアオメエソはこれまでのところ、九州-パラオ海嶺からのみ採集されており、一般にはなかなかお目にかかれない種です。
トモメヒカリを食べる
アオメエソは小型なので、頭から尾鰭までまるごと唐揚げで美味しいのですが、アオメエソよりも大きくなるトモメヒカリについてはそうはいきません。
頭を落とし、三枚におろしてからフライにして食べました。
![](https://sakanato.jp/wp-content/uploads/2025/02/image2-6.jpg)
トモメヒカリのフライは、身が柔らかくクセもなく、若干ある小骨も気になることはなく、小骨ごと美味しく食べることができました。
ほかにも刺身にして食べたり、一夜干しにして焼いたりと、いろいろな調理方法で食べることができます。
ほかのアオメエソよりも大きいトモメヒカリはスーパーなどで見ることは少ないといえますが、それでも静岡県沼津市戸田で行われている試みである「深海魚直送便」などに入っていたりするなど、入手も難しいものではなくなっています。
もし見かけたら、ぜひ食べてみてほしいと思います。
(サカナトライター:椎名まさと)
謝辞と参考文献
今回のトモメヒカリは田中水産社長の田中積さんより入手しました。ありがとうございました。
書籍およびジャーナル
中坊徹次(2013)、日本産魚類検索 全種の同定 第三版、東海大学出版会.
岡村 収・尼岡邦夫( 1997)、日本の海水魚. 山と溪谷社
1
2