“海のギャング”という異名でも有名な「ウツボ」。
一見してコワモテの彼らですが、実は小さな可愛らしい生き物と支え合って暮らす「共生関係」を築いていることを知っていますか?
肉食であるウツボには、不思議な共生関係を築く生き物がいるのです。
厳つい見た目の<ウツボ>はどんな魚?
水族館のガラス越しに、ニョロッとした細長い体と鋭い歯を持った魚を見たことはありませんか? それが「ウツボ」です。
暗い岩陰からじーっと周囲をうかがい、時々口をパクパク。まるで何かを狙っているかのような不気味さから、“海のギャング”なんてあだ名もあるほど。

ウツボは見た目の通り肉食性の魚で、小魚や甲殻類、時には大きなタコまで食べてしまう強者です。
口の中に並んだ鋭い歯で、狙った獲物は逃しません。その口をしょっちゅう開け閉めしている様子は少々不気味に見えるかもしれませんが、実はこの行動は呼吸のため。水を口から吸って、エラから出しているだけなんです。
そんな“危険そう”なウツボのそばに、なんとも可愛らしい存在がいることに気づいたとき、筆者は水族館の水槽の前で思わず声をあげてしまいました。
食べられないの? エビがウツボの口元をチョロチョロする不思議
私の見つめる先には、ウツボの口の中や周りをちょこちょこと歩きまわる小さなエビ。
見た目は華奢で、透明感のある体が美しい。そんなエビが、あのギザギザの歯の間を行ったり来たりしてるのです。
一体なぜ、食べられもせずにそんな危険地帯に入っていけるのでしょう?
実は、このエビたちは「クリーナーシュリンプ(掃除エビ)」と呼ばれ、ウツボにとって「お掃除屋さん」のような存在。ウツボの体や口の中についた寄生虫や食べかすをせっせと食べてくれる生き物なのです。
そんな理由から、ウツボ側もエビを「有益な相手」としてちゃんと食べないように認識していると言われています。

実際、自然界でもウツボはこうしたエビの存在を受け入れており、まるで「ちょっと掃除してくれ~」と言わんばかりに、口をぽかんと開けたままじっとしていることもあるとか。
水族館でその様子を見た私は、「あんな怖そうな魚なのに、なんだかぼんやり口を開けていて可愛いな……」と、ちょっとほっこりしてしまいました。
食べる・食べられるだけじゃない、海の中の多様な関係性
このような関係は「共生」と呼ばれ、お互いに利益を得ながら暮らしている状態です。
エビはウツボに守られながら安全に食べ物(寄生虫や食べ残しなど)を得られ、ウツボは体を清潔に保てる。まさにWin-Win、持ちつ持たれつの関係なのです。
海の中ではこうした共生関係が実に多様で、たとえばハゼとテッポウエビ、イソギンチャクとクマノミなど、異なる種類の生き物が協力して生きているケースがたくさんあります。
見た目では想像もつかない関係性が、水中では自然に成立しているのです。

ウツボとエビの姿を見ていると、「怖そうなもの=悪い」というわけではないし、「小さいから弱い」とも限らないと、ちょっと考えさせられますね。
そして何より、あのギャング顔のウツボが「掃除待ち」で大人しく口を開けている様子は、ちょっと笑えて、なんだか癒されてしまうのです。
次に水族館へ行くことがあれば、ぜひウツボの周りをよく観察してみてください。もしかすると、小さなエビが今日もせっせとお仕事中かもしれません。
(サカナトライター:halハルカ)