我が家の水槽部屋で飼育している「ブッシープレコ」が繁殖しました。
“水槽のコケ取り生体(掃除屋)”として飼育されることも多いブッシープレコですが、条件さえ整えば簡単に繁殖させることができるようです。
繁殖までの準備 健康な親魚を育成する
ブッシープレコ(学名Ancistrus sp.)は、ロリカリア科の小型プレコの一種。南米産ですが、ブリード個体が多く流通しています。
水槽内に生えるコケ(主に茶ゴケと呼ばれる珪藻類)をよく食べるため、水槽の掃除屋として飼育されることが多いです。
ブッシープレコの繁殖を目指すには、まずは健康な親魚(オスとメス)を育成します。
コケ取り生体として飼育されることの多いブッシープレコですが、水槽内に自然に発生するコケだけでは食物不足で痩せてしまうことも多いです。プレコ専用フードなどの人工飼料をしっかりと与えるようにしましょう。
顔にモサモサした突起が生えるのがオス
ブッシープレコは、成長するとオスとメスを比較的簡単に見分けることができます。
顔に「ヒゲ」のような突起がモサモサ生えるのがオス。これが「ブッシー」という名前の由来でもあります。

メスにはこの「ヒゲ」はありません。身を守るときや興奮したときなどに棘状の突起を出すことはあります。

メス個体の栄養状態は産卵数や卵の健康状態にも影響しますし、繁殖時のオス個体はほぼ絶食状態で卵を守ります。
オスメスどちらも日ごろからしっかりとエサを与え、健康的に育て上げるとよいでしょう。
繁殖のカギを握るのは「土管」?
ブッシープレコほか多くのプレコの仲間は、野生下では流木や岩の隙間を産卵床としているそうです。
飼育下では、体がぴったりとおさまるくらいの筒や土管を好みます。奥が行き止まりになっている土管が最適なようで、最近では熱帯魚店などでもプレコ産卵専用の土管を販売しています。

親魚となるプレコたちがしっかりと育ったら、この土管を水槽に投入してやります。
プレコたちがその気になっていれば、すぐにオス親がこの土管に入って縄張りを主張し、そこにメス親を誘い込む行動を観察できるかもしれません。
プレコは夜行性のため、気付かないうちにある夜突然産卵してしまうこともしばしばあるのですが……。
なお、逆にこの産卵床(土管)がない場合はほぼ産卵に至らないため、繁殖を目指さないときには土管を取り出しておけば、個体数管理も容易です。
無闇に殖やしすぎてしまっても後々困るだけなので、適正な数だけ繁殖させるようにしましょう。
産卵~孵化までは親任せ!
無事に産卵まで至った場合、メス親は産卵床から追い出され、オス親だけが卵を守ります。可能であれば、卵とオス親は産卵床ごと他の魚と分け、保育に専念させてあげることをオススメします。
なお、産卵後のメス親は体力を消耗しているので、しっかりとエサを与えて体力を回復させてあげましょう。
我が家の場合、産卵を確認後2~3日ほどですべての稚魚が孵化しました。土管の中の、小さなイクラのような粒々がプレコの卵です。

孵化した後もしばらくの間、稚魚たちは産卵床のなかでじっとしています。暗い土管の中でチロチロとうごめく稚魚の尾びれを見たときは、少し感動しました。
孵化直後の稚魚たちは、お腹に大きなヨークサックをつけています。

オス親は引き続き孵化後の稚魚たちに寄り添い、世話をし続けます。
実はいちど、稚魚が孵化した直後にオス親から分け、人工育成を試みたことがありましたが、その際には多くの稚魚が水カビに侵されるなどして死んでしまいました。
オス親が育児放棄してしまった場合などを除き、孵化後の育成はオス親任せにしたほうがいいのではないかと個人的には考えています。
その間にも稚魚たちはヨークサックの中の栄養を使い、どんどん成長。孵化から4日後、小さいですがだいぶプレコらしい体形になっていました。

稚魚の育成も比較的簡単
孵化から6日が経過した3月11日。
完全にヨークサックを吸収しきった稚魚たちが、産卵床の土管を離れて水槽中に泳ぎ出していました。こうなるともう、オス親の育児は不要です。

オス親は1週間ほぼなにも食べずに育児に専念していたようで、お腹はぺったんこ。体力もきっと消耗しきっていることでしょう。別の水槽に移してエサを与え、体力の回復を図ることにしました。
一方、自由遊泳を開始した稚魚たち。

親魚に与えていたのと同じプレコ専用フードを小さく割って投入したところ、さっそく群がっていました。
ブッシープレコの稚魚たちは、自由遊泳直後から人工飼料を食べることが多いです。熱帯魚を繁殖させる際には稚魚の初期餌料に頭を悩ませることが多いのですが、その心配がないのは非常にありがたいです。
稚魚の口元をマクロレンズで撮影したところ、大きな歯が観察できました。生まれた直後から口器が発達しているので、人工飼料なども問題なく食べられるのでしょう。
また別の魚を飼っていた水槽にコケだらけの土管があったので入れてみたところ、稚魚たちの格好のごちそうになったようです。

茶色くて柔らかいコケ(いわゆる茶ゴケ)は稚魚たちにとって食べやすいのか、ほんの数日で綺麗に食べ尽くしてくれました。
一方、緑色のやや固いコケは後回しになっている様子。微妙な好き嫌いがあるのも面白いです。

「コケ取り生体」だって、サステナブルに飼育したい!
ホームアクアリウムの世界では、今回紹介したプレコやオトシンクルス、フライングフォックスといった魚たちのほか、ヤマトヌマエビ・ミナミヌマエビのようなエビの仲間、タニシやイシマキガイといった巻貝類など、「水槽の掃除屋」としてたくさんの生物が利用されています。
時に消耗的に扱われてしまうこともある彼らですが、彼らだって生き物です。そして、水草レイアウト水槽で重用されるオトシンクルスの仲間などは、現在でも野生下からの採集個体に多くを依存しています。
「コケ取り生体」の中では、比較的簡単に自家繁殖させられるブッシープレコ。彼らを活用することで、ホームアクアリウムという趣味が多少なりともサステナブルなものになるのではないでしょうか。
実際に、ヨーロッパの熱帯魚愛好家の間では古くから自家繁殖させたブッシープレコが重用されていた、という話を聞いたことがあります。
水族館でもブッシープレコを繁殖?
先日、神奈川県の「カワスイ 川崎水族館」を訪問したところ、多くの水槽でブッシープレコが導入されているようでした。

パンタナルエリアの⼤⽔槽ではまだ幼魚サイズの個体も多数見られたので、おそらく水族館内で継続的に繁殖しているのではないかと想像しました。
もし自家繁殖させたブッシープレコを「コケ取り生体」のメインに据えているのであれば、目立たないながらも素晴らしい取り組みだと思います。
(サカナトライター:アル)