トロは寿司ネタの人気ランキングで上位に入る程、需要の高い食材です。しかし、天然マグロから取れるトロの割合は2割程度しかありません。
「もし、全身がトロの魚がいたら」と誰しもが一度は考えるのではないでしょうか。
そんな夢のような魚が日本に生息しているのです。今回は全身トロとも言われるアブラボウズについてご紹介します。
アブラボウズとは
アブラボウズはスズキ目・ギンダラ科に属する大型魚で、体長は180センチ以上、目方は90キロにも達するそうです。本種は北日本の太平洋側に分布し、成魚は水深200~600メートルの岩礁域に群れを作ります。岩礁に生息するため底引き網で見られることは少なく、キンメやアコウダイ等を狙った深場釣りで漁獲されることがほとんどです。
惣菜魚で有名なギンダラもギンダラ科に属し、ギンダラ科はアブラボウズとギンダラの2種のみが知られています。また、ギンダラ科は名前に“タラ”とつくもののマダラやスケトウダラなどのタラ科魚類と全く異なるグループなので注意しましょう。
今では高級魚「おしつけ」、昔は安かった?
アブラボウズは名前の通り筋肉に脂を多く含んでおり、身は真っ白であることが特徴です。特に腹部は脂の含有量が非常に高いため、人によって好みが分かれる魚でもあります。
また、アブラボウズは見た目が高級魚のクエに似ていることから、食品偽装に使われてしまった過去がありニュースにもなりました。そんなアブラボウズですが、現在は高級魚の部類に入り、大きな個体は10万円近くの値がつきます。特に小田原周辺では「おしつけ」とも呼ばれ、非常に需要の高い魚なのです。
「おしつけ」の由来は諸説あります。「おしつけ」が御殿女中の使っていた女房言葉で「毒見をする」という意味だったことから、「毒見を必要とする魚」とする説や、昔は全く売れなかったから「押し付けあった」という説があります。冷蔵技術が未発達だった頃、トロの価値が低かった話は有名ですがアブラボウズでも同じことが言えるのかもしれませんね。
アブラボウズとアブラソコムツの混同に注意
よくある間違いが、アブラボウズとアブラソコムツを混同していまうことです。これは両種とも名前が似ていることに加え、形や色合い、同じ深海魚であることが要因と考えられます。
見分ける方法は至って簡単であり、アブラソコムツは背びれと臀びれの後方に小離鰭(しょうりき)と呼ばれる回遊魚に多く見られる形質を持つのに対して、アブラボウズは小離鰭を持ちません。分類学的にも異なり、アブラボウズがギンダラ科に属するのに対してアブラソコムツはクロタチカマス科に属します。
また、アブラソコムツとアブラボウズは同様に多くの脂を含有していますが脂の種類が異なります。アブラボウズはトリグリセリドと呼ばれる通常の脂を持つのに対し、アブラソコムツは人間には消化できないワックスエステル(蝋)を含んでいます。そのため、食べてしまうとお腹を壊してしまうのです。
そのため、アブラソコムツは厚生労働省により異常油脂とカテゴライズされ、食用としての販売が禁止されています。同じ理由で近縁のバラムツも販売禁止です(厚生労働省 自然毒のリスクプロファイル:魚類:異常脂質)。
アブラボウズは脂が多く含まれていることが指摘されているものの、脂に毒性はないため販売は禁止されていません。しかし、食べすぎるとお腹を壊してしまうので注意しましょう。
アブラボウズは販売禁止のアブラソコムツとしばしば混同されていますが、本種は非常に美味な魚として流通しています。小田原ではちょっとした名物でもあるので、見かけた際には是非食べてみてください。
(サカナト編集部)