ニセクロナマコの体内外に寄生する巻貝
2022年に開催された臨海実習ではニセクロナマコを7個体を含む8種のナマコ類の解剖がされ、体内に寄生する貝類の採集が行われました。なお、ニセクロナマコの解剖において、キュビエ管の放出を抑えるため、メントールを使用した麻酔が施されています。
体内における寄生率は低い
解剖の結果、ニセクロナマコ2個体のから計10個体のセトモノガイ類を発見。
しかし、その後追加標本を得るために2023年と2024年で計71個体のニセクロナマコが採集されましたが、体内からセトモノガイ類は発見されていません。そのため、寄生率は2.6%と非常に低い値となっています。
一方、2023年12月にニセクロナマコの体外に寄生するセトモノガイ類の探索が行われ、ニセクロナマコ6個体中5個体から計14個体のセトモノガイ属が発見されました。
セトモノガイ類4種が体内外に寄生
研究では、ニセクロナマコから得られたセトモノガイ属が形態的に4種に分けられています。
これら4種のセトモノガイ属の筋肉組織からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子の配列を決定。GenBank上のデータと共に分子系統樹の作成が行われました。
解析の結果、ニセクロナマコの体外に寄生していた2種はクロナマコヤドリニナと Melanella spina に同定。体内に寄生していたセトモノガイ属は2種であることが判明しているものの、学名の決定に至らなかったため、Melanella sp. A とMelanella sp. B とされています。
また、こららの種がニセクロナマコの体内と体外に同時に寄生していることはなかったようです。
ニセクロナマコから得られた新発見
ニセクロナマコの体内外から得られたセトモノガイ属のうち Melanella spina は本邦初記録であることに加え、1種のナマコ類がセトモノガイ属に体内外を寄生されていることは世界初の事例だそうです。
また、Melanella sp. A とMelanella sp. B は寄生率が2.6%と非常に低いことから、白浜では珍しい種の巻貝と考えられています。
一方、Melanella sp. BをはじめMelanella spina、クロナマコヤドリニナは非常に広い分布域を持つことも判明。COI遺伝子配列の比較では、いずれの種もことなる産地の個体間で遺伝的な差異が少ないことが明らかになっています。
このことはこれらの種が浮遊幼生期に長距離分散が可能であることを示唆するものとなりました。
これまで寄生性の貝類がどのようにしてナマコの体内に侵入しているのか謎に包まれていましたが、今回の研究では体内の口周辺のみにMelanella sp. A とMelanella sp. B が生息することが判明しました。
このことから、ナマコが砂を食べる際に口の周辺に生息していたセトモノガイ類を体内に持ち込んでしまう可能性が指摘されています。また、奄美で発見されたMelanella sp. B は殻の大部分がナマコの体表に突き刺さっていたことから、体表を貫通して体内に入り込む可能性も考えられているようです。
研究者泣かせともいわれるセトモノガイ属について、今後の研究でさらに謎が解明されていくのが楽しみですね。
(サカナト編集部)
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