アカハライモリは、カエルやサンショウウオの仲間で両生類に分類されています。
両生類の中でも、カエルに次いで知名度の高い生きものと言えるかもしれません。赤、オレンジ色のお腹が特徴的で、とても愛嬌のある姿をしているため、とても人気がある水生動物です。
そんなアカハライモリのお腹が赤い理由を知っていますか? また、南に行くほど赤くなるという説もあるのです。
アカハライモリの秘密を知って、川辺でのガサガサや水族館を楽しむ参考にしましょう。
お腹が赤いアカハライモリ
アカハライモリ(学名:Cynops pyrrhogaster)は日本固有種のイモリ。イモリは両生類という分類に入る水生動物で、カエルやサンショウウオの仲間です。

赤色のお腹と愛嬌のある姿で見る人を魅了します。本州、四国、九州に普遍的に見られる両生類で、二ホンイモリとも呼ばれるそう。背面は黒色、黒緑色や黄土色などバリエーションに富み、腹面の模様は地域でかなり違いがあるのが特徴です。
生息環境の減少などで生息数が激減しており、環境省のレッドリスト2020では準絶滅危惧 (NT)に指定されています。
アカハライモリのもつ赤色は<警戒色>
アカハライモリはテトロドトキシンという猛毒を皮膚表面から分泌します。これはフグがもつ毒と同じもの。毒を分泌するのは、捕食者から逃げるための生存戦略のひとつです。
このような毒を持つ両生類は、警告色(警戒色)といわれる原色に近い色を持つものが多いことが知られています。

例えば、アマゾンに生息し、危険な毒をもつヤドクガエルなどは、黄色や赤色、青色、緑色などの派手な色をしています。「オレは毒を持っているから食べると危険だよ!」と捕食者にメッセージを送るための警戒色なんですね。
つまり、アカハライモリのお腹が赤色やオレンジ色をしているのは、警戒色としてなのです。
本種がもつ毒は、濃度が薄く量も少ないことから触れるだけでは影響が出ませんが、目・鼻・口など粘膜から体内に吸収されないよう十分に気を付ける必要があります。触ったあとは石鹸などで丁寧に手洗いをしてくださいね。
またペットを飼育している方は、アカハライモリに触れた手でペットを触ったり、ペットがアカハライモリを咥えたりしないように気を付けましょう。
お腹の赤い面積は緯度によって変わる?
アカハライモリのお腹の赤い面積や黒い模様については、地域性があるとされています。
これは、広島大学の沢田氏が観察により分類したものです。沢田氏の報告(日本産イモリの地方種に関する研究、広島大学学術雑誌、1963)によると、模様については、「黒い模様がない」「黒い斑点が散在する」「黒点が左右対称に並ぶ」「網目模様」「波状模様」の5つに分類されるそう。

また、アカハライモリのお腹の赤い面積や黒い模様については、地域性だけでなく緯度とも関連性があることが推測されています。
日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月)で、「関西におけるアカハライモリの警戒色の多様性」について報告されました。この報告では、標高が同程度の個体群では赤色の面積や模様の特徴が似ているが、標高の差が大きいほど大きな差異があること、また、標高が高いとお腹の赤い面積は小さくなり、標高が低いと大きくなることが示唆されました。
長崎総合科学大学の持田浩治教授も、アカハライモリの赤いお腹の面積とアカハライモリの捕食者からの回避行動についての研究しており、緯度が低いほど赤色の面積が大きくなることが確認されています(アカハライモリの警告色と防御行動の相関した進化、科学研究費助成事業、2007)。
また、岡山自然保護センター研究報告によると、岡山県内で観察されたアカハライモリのお腹の赤い面積は緯度が南に行くほど大きくなるそうです(あかはら模様は百変化、岡山自然保護センター)。

なお、和歌山県では、2021年にほぼ全身が橙色のアカハライモリが発見されたこともありますが、こちらは突然変異などの遺伝的要因可能性が高いとのこと(上写真)。また、和歌山県は緯度が低く暖かい地域なので赤色の面積が大きくなりやすいことも要因になったと考えられます。

捕獲時には背中まで赤かったアカハライモリも、飼育している間に少しずつ黒色の部分がふえてきたそうです。これは、エサや水が捕獲された場所と同じではないので、本来のアカハライモリの表現型に戻っているのかもしれません(エサがテトロドトキシンの蓄積に重要なため)。
アカハライモリは同じ場所でも模様の個体差が大きく、模様で個体識別ができるほど多彩。そのため、全ての個体で緯度による赤い面積の違いが現れないこともあります。ただ、群間ではお腹の赤い面積に差異が出るようなので、とても複雑で不思議ですね。
アカハライモリのお腹を観察してみよう!

生育環境の減少などで、街の近くではほとんど見かけることが少なくなったアカハライモリ。もし、田舎へ遊びに行ったり、里山で生き物を探すイベントなどに参加したりする機会があれば、安全に配慮してアカハライモリを探してみましょう。
アカハライモリを触ったら、きちんと手を洗うことを忘れないでくださいね。
(サカナトライター:額田善之)